【152】本校借り暮らし編⑯ 〜封印されしダンジョン《ゼロズ》〜
分厚い石の扉を押し開け、アーシスたち四人は封印の奥へと足を踏み入れた。
そこは──伝説に語られる太古のダンジョン《ゼロズ》。
薄暗い通路の奥からは、氷のような冷気が這い出してきていた。
押しつぶされそうな重圧に、自然と呼吸が浅くなる。
「……んにゃっ」
にゃんぴんが小さな前足を振り、ふわりと火の玉を生み出す。
淡い光が石壁を照らし、一行はゆっくりと奥へと進んでいった。
すると──、暗闇の先に魔物の気配を感じる。
アーシスたちは短くうなずき、武器を構える。
じりじり間合いを詰めると、闇の先から不気味な赤い光が複数、とぼる。
「くるぞ!」
アーシスの叫びと同時に、闇の中から三頭のモンスターが飛び出してきた。
鋭い爪が空を裂き、牙を剥く。アーシスたちは冷静に弾き返し、間合いを取り直す。
光に照らされたその姿は、ウサギ型──しかし見たこともない種族だった。
「ブロウバニー……じゃないよな?」
シルティが眉をひそめる。
「ああ……もっと荒々しい……牙も鋭い。トルーパー、知ってるか?」
「……いや。王都周辺でも見たことがないな」
未知の魔物に、緊張が走る。
「おそらく……魔族から派生した太古のモンスター、といったところでしょうか」
ナーベが冷静に推測する。
「なるほど、ブロウバニーの祖先って感じか……」
アーシスは剣を構え、一歩踏み出す。
ジリ……。
ダンジョン内に緊張が走る。
次の瞬間、魔物たちが一斉に跳躍──、が、空間に閃光が走る。
──アーシスのホワイトソードが一閃、
三頭の魔物をまとめて切り裂いた。
(はやい……)
目を見張るトルーパー。以前よりも格段に鋭さを増したアーシスの動きに、驚愕を隠せなかった。
「たいしたことなかったにゃんっ」
「まぁ、まだ小手調べって感じだな」
にゃんぴんとアーシスは軽くハイタッチ。
(……そしてあの剣……)
トルーパーの視線が、白く輝くホワイトソードに注がれる。
「……この前から思っていたが、良い剣を持ってるな」
「ん?……ああ、スチールフォージ工房の剣、借りてるんだ」
「なっ……!?あの伝説の工房……閉鎖したはずじゃ……」
「お、よく知ってるな。色々あって、再開してもらったんだ」
「おーい、アーシス」
「どーしたー?」
シルティに呼ばれたアーシスは、魔物の元へと駆け寄っていく。
魔物の赤い魔石を珍しそうに眺めるアーシスを見ながら、トルーパーの心臓は高鳴っていた。
(……二年前、俺が訪れた時は門前払いだった。……こいつ、一体何者なんだ……)
◇ ◇ ◇
アーシスたちは慎重にダンジョンを進んでいた。
途中、何度か見たことがない魔物に遭遇したが、四人の連携でなんなく撃破。
やがて視界が開ける通路の角で、一行は休憩を取っていた。
「今のところ、たいしたことないな」
パンをかじりながらアーシスが呟いた。
「……でも、魔物は少しずつ強くなっている気がします」
「たしかに。ぺろっ」
シルティはりんご飴を舐めながら、ナーベに頷いた。
「……魔族の封印に近づいているという証拠か」
ケチャップをほっぺにつけながら、トルーパーは通路の先を睨む。
──その時、
ドタドタドタドタドタッ!!
地鳴りのような音が後方から響いてきた。
「な、なんだ!?」
アーシスたちは即座に身構える。
と、ごろごろと転がってきた“何か”が、アーシスたちの手前の石壁に盛大に激突した。
「ぐふっ!!」
──衝突の煙の中から現れたのは──逆さまに倒れ込む黒髪の女性だった。
「……人間、か?」
シルティが剣でつつこうとすると、女性は目を覚まし、苦笑した。
「や、やぁ……こんにちは」
(つづく)