【14】仮想ダンジョン攻略課題⑤ 〜最終日、幕開け〜
訓練場奥、仮想ダンジョン前。
朝日が地平線を照らし、冷えた空気に緊張感が漂う。
「最終日は、昨日までの“討伐評価”に基づき、後方スタート形式となる」
教官の声が響く。
「A組代表、グリーピー=ビネガー一行。昨日は上位評価、先頭スタートだ」
グリーピーが、豪華なマントを翻しながらダンジョン前に立つ。
「ふん……ようやく先頭に立てる舞台が来たな」
後ろを振り返り、視線を向けたのは──アーシスたちだった。
「ビリの皆さん、遅れないように頑張ってくださいね? ま、先にラスボス倒しときますんで」
嫌味たっぷりに笑い、手を振るグリーピーにアーシスは叫んだ。
「おい!グリーピー!」
「あぁ?ビリの田舎者がなんか用か?」
しばらく睨み合った後、アーシスが口を開く。
「お前…
ズボン履き忘れてるぞ?」
!?
短パンタイプのパンツだったのでまわりの生徒は気にしていなかったが、確かにグリーピーはズボンを履き忘れていた。
どっ!!
このクラス始まって以来最大の笑いが起きた。
「く、お前、ズボンよこせっ」
「ひぇ〜」
グリーピーは取り巻きのズボンを奪い取った。
「覚えてろよ……アーシス」
「おいおい、俺は感謝されてもいいくらいだぞ、おパンツくん」
「チィッ」
グリーピーはそそくさとダンジョンに入っていった。
「あはは、けっさくですね」
アップルとマルミィは笑っている。
「アーシス……」
真剣な眼差しでシルティは話しかけた。
「おぅ、リンゴなら5個持ってるぞ」
「…………」
「…なんだ、ちがう話か?」
「……いや」
「あ、そーか、今食べたいんだな、はいはい、ほれっ」
手渡されたリンゴをシルティは見つめている。
(「絶対に勝とうな」)、と言おうとしていたのだが、タイミングを失った。
「シャリ…」
そうこうしていると、すべてのチームが出発し、残るはアーシスたちだけとなった。
背筋を伸ばし、剣の柄を握る。
「A-3パーティ――アーシス・フュールーズ一行、入場許可」
「……いよいよだね」
アップルがそっとアーシスの隣に立つ。
「おぅ。今日こそ、本当の“俺たち”を見せる時だ」
全員がうなずいた瞬間── ダンジョンの扉が、沈んだ音を立てて開き始めた。
最後の戦いが、幕を開ける。
(つづく)




