【147】本校借り暮らし編⑪ 〜月光〜
──夜。
旧校舎の寝室には、分校生たちの寝息が微かに重なっていた。
鉄製のベッドが並ぶ薄暗い部屋で、アーシスだけが一人、天井を見つめたまま目を閉じられずにいた。
(……"特性"、か)
胸の上で丸くなって寝息を立てているにゃんぴんを、アーシスはそっとなでる。
(……あの黒紫のマナが流れ込んできた時──、たしかに魔力が溢れ出てきた……。でも……暴れる力を抑えることが出来ない……。そして……。あのマナは……にゃんぴんから、流れ込んできた……)
アーシスは、にゃんぴんの顔を見つめる。
(……でも、このまま避け続けていていいのか?)
脳裏に浮かぶ、今日のダークデンジャーの言葉──
「少なくとも今のままじゃ、その先には行けないよ」
──静かな声だったのに、不思議なほど胸に刺さっていた。
(……逃げずに、向き合うべき、か……)
ぼそりと呟いた瞬間──
「んにゃ……」
にゃんぴんが目を細めて、アーシスの手に頬をこすりつけてくる。
「……お前、起きてたのか?」
「にゃふ……んにゃ」
何を言っているのか全くわからないが、不思議と“わかってくれている”気がした。
アーシスはゆっくりと微笑むと、小さく囁く。
「……ありがとうな。もうちょっとだけ、怖がらずに考えてみるよ」
にゃんぴんは「にゃふ」と短く鳴くと、安心したように丸くなって再び眠りについた。
アーシスは小さく息を吐き、窓の外に目を向ける。
(いずれ……その時が来るかな)
雲の切れ間から、柔らかに月がアーシスを照らしている。
──まぶたに少しだけ温かい重みが戻ってきた。
アーシスは静かに目を閉じると、いつの間にか心地よい眠気が身体を包んでいた。
──闇の中で、遠い未来の剣閃が微かに脈動する。
(つづく)