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【143】本校借り暮らし編⑦ 〜討伐課題:チームD vs 死舞蝶ヴェノム・パピリオ〜


「……す、すげぇ」

「あの黒鉄魔獣を、簡単にやりやがった……」

「斬剣祭の実力は嘘じゃなかったんだな……」

「いやそれに……孤高の天才とああもすぐに連携なんてできないぞ……」

「……たしかに。女子二人のサポートもすごかったな。チームA、最強じゃないか?」


 壁上の観客席で、生徒たちは目の前の光景に息を呑み、ざわめきが広がる。


 そこに、転送光に包まれたチームAが戻ってきた。

 まわりの生徒たちには、うかつに近づけない、異様な空気が流れる。


 そんな中、一人の男がすっとチームAに近づいた。

「さすがだな、アーシス。まさかあの魔獣相手でタイムを抜かれるとはな」


 笑顔で声をかけたのは、ダルウィンだった。

「へへっ」

 アーシスも笑顔を返し、二人は力強くハイタッチ。

 続いて、ダルウィンは隣に立つナーベに目を向ける。

「ナイスサポート、ナーベ。君がいなかったら、僕らのタイムは抜かれなかったのにな」


「……私だけじゃなく、全員の力です」

「確かに。そうだな」

 謙遜するナーベの肩をダルウィンは軽く叩いた。


「アーシス!やったね!」

 アップルを先頭に、エピック・リンクの仲間たちも駆け寄ってくる。


「にゃんぴんとの連携技、すごかったな」

「にゃふー!」

 シルティの褒め言葉に、にゃんぴんは空中でくるくると自慢げに旋回する。


「チームAの記録……もう抜かれそうにありませんね」

「へへ〜、だよな!」

 マルミィの言葉に、アーシスは嬉しそうに片目をつぶってウィンク。


「さぁ、次のチームいくぞ!!」

 ダンバイロンの号令とともに、演出フィールドが轟音を響かせながら変形を始める。


 ゴゴゴゴ…… 地面がゆっくりと空へ持ち上がり、巨大な蔦と毒々しい紫の花が絡み合う天空庭園が姿を現す。

 その周囲には大小の浮遊石が漂い、風に揺れていた。


 そして──半壊したガゼボの影から、巨大な蝶が羽ばたき飛び出す。 黒地に紫の光沢を帯びた翼が陽光を反射し、角度によって妖しい紋様が浮かび上がる。


「蝶のモンスターか、これまたデカいな」

「……なんて名前だろうな」


 生徒たちは、すでにチラチラとマルメガネの生徒を横目で見ている。


「あれは……」


(きたーー!!)


 マルメガネの生徒が喋り出すと、待ってましたとばかりに生徒たちは耳を傾ける。


「《ヴェノム・パピリオ》……、別名《死舞蝶しぶちょう》と呼ばれるA級魔獣ですね……。触角は鋭い刃状で、鞭のようにしなって金属すら容易く切断します。体表からは微細な毒粉を常時放出していて、近づくだけで視界が霞む危険があります」

(……モンスター博士くん、のってきたな)

 細かく説明するモンスター博士くんを横目に、アーシスは心の中でそっと呟いた。


「極めつけは──残像を生み出し、上空から毒針の雨を降らせる必殺技デス・ミラージュ。対空戦闘に慣れていない者には、まず勝ち目はありません……」


「……こいつも、やっかいそうな相手だな」

「ああ……」

 ダルウィンとアーシスは腕を組んでモニターを見つめる。


「それではチームを決めるぞ!」

 ダンバイロンが魔導モニターを指差すと、スロットが高速回転を始め──


 ピ、ピ、ピ、ピ……

 ピー!!

 表示されたのは──《チームD》。


「来たわね」

「……うん」

 プティットとパットは険しい表情で画面を見据える。


「飛んでいる敵って、けっこうやっかいですよね……」

 冷や汗を流しながらドナックが呟いた。


「ああ……。おまけに、地面まで浮いてるから、剣士の僕と槍使いの君は役に立たないかもね。……ここは、魔法使いの二人に任せるしかないかな……」

 パットがプティットに視線を送り、さらにディスティニーの方へ──、

 だがディスティニーは、後ろを向いて小刻みに震えていた。


「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ、みんなで協力すれば……うん?」

 パットが覗き込むと、ディスティニーの手元には魔導スマホ。ディスティニーは必死にパズルゲームをやっていた。


「あっ、なんでここで長い棒が……。あ、あ、やだ、だめっ……」

 ──画面には「GAME OVER」の文字。


「……あの、ディスティニーさん……僕たちのチームの番ですが」

「はっ!す、すみません。つい夢中になってしまって……」


(この人……大丈夫かな……)

 パットたち三人の脳裏に同じ不安がよぎる。


(あいつら……大丈夫かな……)

 遠くから見ていたアーシスの頭にも、同じ言葉が浮かんでいた。


「行くわよ!」

 プティットの掛け声と共に、チームDが転送陣の光に包まれていく。


「キャー、ローズ様、頑張ってー!」

「ふわぁ、ローズ様、今日も可憐です〜」

 一年生女子たちの黄色い声援に、ディスティニーは振り返って微笑み、軽く手を振った。


(……人気はあるんだな)

 アーシスは小さく首をかしげるのだった。



   ◇ ◇ ◇


 地上に降り立ったチームDの面々は、無言で上空を見上げた。


 そこには──天空庭園を旋回する《死舞蝶》ヴェノム・パピリオの姿があった。

「……標的が最初から見えてるのはありがたいけど、あそこまでどうやって行くかだな」

 パットが眉間にしわを寄せる。


「プティ、この距離から魔法で狙えるかい?」

「残念だけど無理ね。魔力は届くけど、精度が落ちすぎるわ」


「となると……あいつを地上までおびき寄せるしかないか……。あいつの好物、誰か知ってる?」


「蝶なら……花の蜜、ですかね……」

 ドナックの答えに、プティットは肩をすくめた。

「形が似てるからって、同じ生態なわけないでしょ。それに、蜜なんてどうやって集めるのよ」


「そ、それは……すみません」

 プティットの辛辣なツッコミに小さくなるドナック。


 ──その時。


「……あの」

 後ろで話を聞いていたディスティニーが、小さく手を挙げた。


「?なによ」

 三人の視線が集まる中、彼女はにこやかに告げる。


「やっちゃっても、いいですか?」



   ◇ ◇ ◇


 ──壁上の観客席でモニターを見つめる生徒たちから、どよめきが走る。


 地上の森林から、超巨大な魔法陣が二つ──否、三つ。空と大地に同時展開されたのだ。


「きゃ〜っ、ローズ様よ!!」

 本校一年の女子たちが歓声を上げる。


 魔法陣を展開したのは、もちろんディスティニー。

 空中に二つ、大地に一つ、魔力の紋章は不気味に脈動し、風を巻き起こす。


「な、なによこれ……!?」

 激しい風圧に耐えながら、プティットが目を見開く。


「行きますよ〜……《ヘルズフレイム》!」

 ディスティニーが杖を掲げた瞬間、地面の魔法陣から赤黒い巨人のような炎が噴き上がった。

 同時に、空の魔法陣から吹き下ろす暴風がその炎を吸い上げ、天空へとねじり昇らせる。


「いけっ、地獄の炎!」


 命令と同時に、炎は気流に乗ってさらに膨張し、龍の如き咆哮を上げながら、疾風のような速さで一直線にヴェノム・パピリオへ迫る。


 一瞬。

 本当に、一瞬の出来事だった。


 炎は地面から天空庭園へ向かう樹々をすべて燃やし尽くし、そのまま死舞蝶を飲み込む。

 黒紫の翅が燃え上がり、断末魔の絶叫を残して──死舞蝶は黒い灰となって崩れ落ちた。


 ──ヴィィィィィィィィィッ!!

『討伐完了──タイム、59秒!!』


「……う、嘘だろ……」

 アーシスは衝撃に一歩後ずさる。

 分校の生徒たちは口を開けたまま声を失っていた。


「……す、すごすぎます」

 マルミィも茫然としたまま、モニターに釘づけになっている。


 そんな中、

「きゃ〜〜、ローズ様かっこいい〜!!」

 本校1年の女生徒たちは、いつものことのようにはしゃいでいた。

 

「……これが、"最古の魔法使い"ダリア=ウッズ級と呼ばれる天才魔導士か……」

 パブロフはモニターを見ながら、ごくりと唾を飲み込んだ。


 こうして、初日の合同授業は──チームDの圧勝で幕を下ろした。


(つづく)


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