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【141】本校借り暮らし編⑤ 〜討伐課題:チームF vs ツーフェイスリザード〜


 チ、チ、チ……。


 空中に浮かぶ巨大モニターの隅に表示されたタイマーが、残り数秒で三十分を迎えようとしていた。


 モニターを見つめる生徒たちの表情は、第二グループまでの時のような熱気を失い、どこか醒めた視線に変わっていた。


 ──そして、

 ヴィィィィィィ。


 乾いたアラーム音が会場に鳴り響き、無情にも《タイムオーバー》の文字が表示された。


 モニターに映っていたのはチームCの面々。

 しかし、モンスターと戦っている姿はそこにはなく、我が我がと邪魔をし合っているグリーピーとドムス、間に入り必死で止めに入るマルミィ、そして、ただまわりであたふたするミーニィの姿だった。


「……ったく、何やってんだあいつらは」

 魔導タバコをふかしながら、パブロフは呆れかえっている。


「あ〜あ、せっかくマルミィがいるのに、何もせずに時間切れなんてぇ……」

「……宝の持ち腐れだな」

 アップルとシルティも同時にため息をつき、言葉少なに画面を見つめる。


 ──そして、


「お前らはこの課題の意味をまったくわかってないな!!」


 帰還してきたチームCの面々に向かってダンバイロンは怒声を飛ばすと、指輪型の魔具をひと振りして小さな乱層雲を出現させ、チームCのメンバーそれぞれの頭上に粉雪を降らせた。


「そこで頭を冷やしてろ!!」

 ダンバイロンの怒号にチームCは肩をすくめながら黙りこむ。


「気を取り直して次のグループに行くぞ!!」

 魔導スピーカーに大声を放つと、ダンバイロンはリモコンのスイッチを押した。


 ゴゴゴゴ……、

 地響きとともに森の木々が引き裂かれ、代わりに廃墟の建造物群が地面から突き出てくる。

 そして、耳をつんざくような奇妙な咆哮と共に現れたのは──

 頭を二つ持つ、巨大な蜥蜴型モンスター。


「……次は、ツーフェイスリザード──双頭蜥蜴か」

 モニターを見上げていた本校の男子生徒が、大きなマルメガネを直しながらぽつりと呟いた。


「……さっきから、モンスターの名前はみんなあいつが言ってるんだよな」

「そう言えばそうだな、詳しいんだろ」

「モンスター博士くん、と呼ぼうか」

「……まぁ、いいんじゃないか」

 モニターの前でアーシスとダルウィンはたわいもない会話をしていた。


 ──そうこうする間に、リザードと戦うチームがモニターに映し出された。

 《チームF》、アップルとシルティのチームだ。


「来たね!!」

 アップルがぐっと拳を握ると、隣のシルティが静かに頷いた。


「円陣組むよ!」

 呼びかけに応じて、チャーシューとポメラニアンも駆け寄ってくる。


「いい? チームF、1位目指していくよ!」

「もちろんだ!」

「ふっ、当たり前だな」

「が、頑張りますぅ……!」


 四人の手が中央に重なり、アップルの声が響く。

「いくよ! ファイッ!!」

「「「オー!!」」」


 その光景を少し離れた場所で眺めていたアーシスとダルウィン。

「このチームはアップルとシルティがいるから、連携は良さそうだな」

「ああ、そうだな。タイムが抜かれないかひやひやだ」


「チームF、転送するぞ!!」

 ダンバイロンの号令と共に、魔法陣が展開され──彼らの姿がフィールドへと消えた。



   ◇ ◇ ◇


 ──森の木陰。 


 転送されたチームFの面々は、大木の根元に身を寄せ合っていた。

 葉を透かして差し込む陽光の中、アップルが小声で情報を整理する。


「えっと、チャーシューはサポート魔法が得意で、ポメちゃんは攻撃魔法が得意だったね?私は回復とサポートが得意、で、シルティは剣士」


 慣れた様子でアップルの話を聞いているシルティの横で、チャーシューは手鏡を見ながら前髪の流れを確認中、ポメラニアンはとにかくおどおどしている。


「……じゃあ、ポメちゃんが中距離から牽制魔法を撃って、シルティが仕留める。私とチャーシューは二人をサポートするって感じでいくよ!」


「わ、わかりました」

「ふっ、了解した。俺は、支える男だからな」


(大丈夫かな、この二人……)


 少し不安になりながらも、アップルは元気よく号令をかける。

「時間もないし、さっそく行くよ!!」



   ◇ ◇ ◇


 森を抜けた先、古びた石造の廃墟。

 その最上段に、異形の影が見えた。


 二つの頭を持つ巨大なトカゲ──ツーフェイスリザード。

 その巨体は廃墟の床を軋ませ、二対の瞳がギラリと光を放つ。


「いたわ!標的発見!作戦開始よ!」


(まずは、ポメちゃんの魔力向上ね……)

 アップルが素早く詠唱を始めようとした、その時──


「ふっ、俺に任せろ!」

 チャーシューが彼女の前に立ちふさがり、ドヤ顔で杖を振り上げる。


「《ヘイスト》!!」

「……え?」


 チャーシューのスティックから飛んだ支援魔法がポメラニアンの身体を眩しい光で包み、移動速度が一時的に上昇する。


「……遠目から攻撃する子の移動速度上げてどうすんのよ」

 呆れるアップル。


「ふわぁ……すごいです!身体が軽いですぅ!」

 ポメラニアンはふにゃあと笑って頬を染める。

「……あんたも喜んでんじゃないわよ」

 冷たく突っ込むアップル。


「ふっ、サポートする俺、かっこ良!」

 キラリと髪を撫で上げるチャーシュー。

「……ダメだこりゃ」

 ため息をつくアップル。


「まぁいいわ……ポメちゃん!攻撃魔法よろしく!」

「わ、わかりましたっ!」


 ポメラニアンが杖を構え、詠唱を開始──だがその瞬間、

「きゃっ!」

 足元の小石につまずき、魔力を溜めたまま転倒。放たれた魔法は完全に見当違いの方向へ飛び──


 ボカンッ!!

 ──爆裂魔法がアップルの顔面に直撃。

 髪が逆立ち、頬がすすで黒く染まるアップル。


「ご、ごめんなさい……」

「……オーケー、オーケー。ミスは誰にでもあるからね」

 顔から煙を出しながら、引きつった笑顔を作るアップル。


「……なにをやっているんだアイツらは」

 前方に潜むシルティが後ろを振り向いて呟いた。

 その時──リザードの気配の変化にシルティが反応する。


「っ……気づかれた」

 シルティは廃墟の上を睨みつけ、低く呟いた。

 ツーフェイスリザードの二つの首が、ギロリとこちらを向いている。


「……来るぞ!!」


 獣の咆哮と共に、巨体が柵を破って跳躍。一直線にシルティを狙って飛びかかる。


「ふっ、アイツのスピードを落としてやろう、《スロウ》!!」

 タイミングよくチャーシューが速度遅延魔法を撃ち放つ。


「ナイス、チャーシュー!」

 ──が、その魔法はリザードではなくシルティに命中。


「うぉいぃ」

 シルティの動きが鈍り、突っ込みもスローに聞こえる。

「危ない、《シールドフォース》!!」

 リザードの爪がシルティに迫った瞬間、アップルの防御魔法が走り、間一髪攻撃を弾き飛ばす。


「ふっ、魔法の効き目、良!」

 ポーズを決めるチャーシューのことは相手にせず、アップルはすぐさま効果解除魔法をシルティに放つ。


「《リリースエフェクト》!」


「……アップル先輩すごい。わ、わたしも頑張らないと」

 ポメラニアンは杖をギュッと握り締めた。


 ──キィン、キィン!

 スロウの影響を解除されたシルティは、すぐさま体勢を立て直し、リザードと交戦を開始。


「援護する!」

 詠唱を開始したアップルは、空中に魔法陣を展開、


「くらえ、《ホーリーフレア・ランサー》!」


 収束した光の槍をリザードに向けて撃ち放とうとした──瞬間、前に飛び出すポメラニアンの姿が目に入る。


「あ、危ない!!」

 アップルは慌てて魔法を中断、

「ちょっ、なんであんたがそんな前にいるのよ!?」

「えっ?」


 振り返るポメラニアンの隙を見逃さず、リザードが爪を振り下ろす──


 キィン!!

 ──咄嗟に身体を入れたシルティの剣が鋭い爪を受け止め、剣が火花を散らす。


「ふっ、俺の出番かな」

 チャーシューが髪をかきあげると、アップルが青筋を立てて怒鳴り散らす。

「うるさい!あんたの出番じゃない!」


 ポーチから取り出したミニリンゴをシルティに投げつけると、アップルは叫んだ。

「シルティ!こうなったら二人でやるよ!」


 シャリッ。

 リンゴを口でキャッチしたシルティが呟く。

「了解」


「《シールドフォース》!」

 アップルはチャーシューとポメラニアンの前に、特大の魔法の盾を展開。

「アンタたちは、黙って見てなさい!」


 と、味方二人の制御をしているアップルの背中へリザードが飛びかかる──


「──甘い!」

 ドガッ!!

 シルティの飛び蹴りが側頭部に直撃、巨体は廃墟の壁に叩きつけられた。


 アップルはすかさず詠唱、

「《スピードブースト》《クイックフェザー》!!」

 二つの加速魔法をシルティに重ねて放つ。


「決めて、シルティ!!」

「任せろ!!」


 風をまとい、音を裂いて走る少女の剣閃。


「──《双牙閃》!!」


 上下の二連撃が鋭く放たれ、ツーフェイスリザードの双頭を一閃に斬り落とす。


 ズズン……ッ。

 大蜥蜴はそのまま沈黙──

 ──そして。


 ヴィィィィィィ……!!

 討伐完了の音が敷地内に鳴り響く。


『討伐完了──タイム、16分32秒!!』



   ◇ ◇ ◇


 モニターを見上げるアーシスとダルウィンは、そっと口を開いた。

「……連携、全然だったな」

「……ああ」


(つづく)


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