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【140】本校借り暮らし編④ 〜討伐課題:チームE vs スパイキースネークヘッド〜


 興奮冷めやらぬまま、討伐を終えたチームBの面々が光に包まれて壁上に帰還した。


「やったな、ダルウィン!」

「ああ」

 駆け寄ったアーシスとダルウィンは、がっちりとハイタッチを交わす。


 その様子を離れた場所で腕を組みながら見ていたダンバイロンは、鼻を鳴らすように吐き捨てた。

「ふん、あの小僧、なかなかやるな」


 パブロフは魔導タバコをくゆらせながら、どこか楽しげに笑みを浮かべている。


「静かにしろ!!次のモンスターを放つぞ!」

 魔導スピーカーで怒鳴り声をあげたダンバイロンがリモコンのスイッチを押すと、壁内の地形が音を立てて変化していく。

 生徒たちはその変貌を、息を飲んで見守った。

「……なんか、湖がでかくなってないか?」


 地形は様変わりし、全体の三分の二を占める広大な湖が現れていた。先ほどの地形とのあまりの違いに戸惑う生徒たち──そんな中、一人の生徒が呟く。


「……ってか、モンスターはどこだよ!?」


 生徒たちはエリア内を見渡すが、誰一人モンスターを見つけることが出来ない。


「いないぞ……」

「……もしかして、今回はさっきの逆で小さいヤツか?」


 戸惑う声が飛び交う中、ダンバイロンはニヤリと笑いながら生徒たちの前に立ち、生肉の塊を高々と掲げた。


「え?……肉?」

 

「そらよ!!」

 ダンバイロンはそのまま勢いよく、湖の中心に向かって生肉を投げつけた──と、直後。


 ザパァァァン!!

 轟音とともに水柱が上がり、水中から飛び出したのは──無数の尖った骨を纏う巨大魚だった。


「な、なんだあれ!?」

「……スパイキースネークヘッド!?尖雷魚じゃないか……!」


 水面で生肉を丸呑みにしたそれは、雷撃を纏いながら水中へと潜っていった。


「ふふ、水中戦とはやっかいな相手だな。それではチームを決めるぞ、回れ!!運命のスロット!」

 ダンバイロンが魔導モニターを指差すと、スロットが高速回転を始めた。

 全員が息を呑む中──


 ピ、ピ、ピ、ピ……

 ピー!!


 モニターに映し出されたのは──《チームE》の文字。


「……ちっ」

 舌打ちをするルールーの隣で、キャールは「あちゃ〜」と肩を落とす。

 他のチームの生徒たちはほっと胸を撫でおろしていた。


「やっぱ、水中のモンスターとなると、手間取りそうだよな……」

 顎に手をかけるアーシスに、ダルウィンも難しい表情で答える。

「ああ、どうやって陸に引きずり出すか……時間がかかりそうだな」


 そんな中、ラッティの頭を後ろからガシッと掴んでボムズが叫ぶ。

「なんだぁ、おめぇらビビってんのか!?情けねぇ奴らだなぁ!!」


「ちっ……びびってなんかいないわよ。作戦を考えているのよ」

 睨み返すルールーに、ボムズも怒鳴り返す。

「作戦なんていらねぇよ!ようはぶっ飛ばせばいいんだからな!」


「……これだから単細胞は嫌なのよ」

「なにぃ!!」


「ま、まぁまぁまぁ、同じチームなんだからさ、仲良くやろうよ……」

 一触即発の中、キャールが間に入る。


 ボムズは「ふん」と吐き捨て、ラッティの頭を投げつける。


「とと……」

 キャールがラッティをキャッチ。

 頭からピューっと細い血が飛び出したラッティに、すぐさまキャールは回復魔法をかける。


「チームE、転送するぞ!!」

 ダンバイロンの号令とともに、チームEは眩い光にに包まれ──戦場へと送り込まれていった。



   ◇ ◇ ◇


 湖畔の岩場。

 転送されたチームEの面々は、慎重に湖面を睨んでいた。


(水中に入ったら絶対にやられるわね……どうやって引きずり出すか……)


 様子を探っているルールーの横に、キャールが近づく。

「……どうする?ルールー」


「……何か…、陸まで来なくても、空中に飛び上がらせることが出来れば、切れるんだけど……」

「となると、先生がやったように何かの肉を投げつけるか、それとも何かいい魔法があればいいんだけど……」


 作戦を練るルールーとキャールに割って入るように、ボムズが不満げに声を上げる。

「おい!なにごちゃごちゃべしゃってんだ!時間がどんどん過ぎてくだろぅが!」


「うるさいわね!そういうあんたは何かアイデアがあるわけ!?」

「あるに決まってんだろ──こうだよ!」

 ボムズはラッティの背後に回り、素早く身体を持ち上げた。


「うわ、えっ!?」

「ちょっと、何する気よあんた!」


「……見りゃわかんだろ──、おらよ!!」

 ルールーたちが制止する間もなく、ボムズはラッティを湖へと大きく投げとばした!

 ──モニター越しに、生徒たちのどよめきが走る。


「うわぁぁぁぁぁ!!」

 綺麗な放物線を描き、涙目のラッティは湖の水面へと落下していった、その時──


 ザパァァァァ!!

 口を開けた尖雷魚が、弾けるように湖から飛び出してきた。


「!!」

「ひぃぃぃ……」

 ラッティが死を覚悟した瞬間──


「《ボムズボム》!!」

 岩上のボムズが黒光りする球体爆弾魔法を尖雷魚に向けて撃ち放つ!

 ──まさにラッティを咥えようとした尖雷魚の横顔に、ボムズボムが命中し、爆烈!


 ボガァァァァン!!

 ──キィィン!


 ザパァァン!

 爆風の中、ラッティと尖雷魚は共に湖へと落ちる。


「……てめぇ!!」

 ボムズがキャールを睨みつけた。

 ──直撃寸前、キャールが放ったシールド魔法がボムズボムの衝撃を和らげていたのだ。


 致命傷を逃れた尖雷魚は、弱りながらも湖の中へと姿を消していった。


「あんた、なんてことすんのよ!!仲間を巻き添えにするなんて!」

 激昂したルールーがボムズに詰め寄る。


「ふん、別に後から回復すりゃいいだろぅが」

「なんですって!!」


 殺伐とした空気が流れる中──キャールは冷静に魔導縄でラッティを引き上げていた。

 そして、黒焦げのラッティにすぐさまヒールをかけはじめる。


 その様子を横目で見ながら、ルールーが呟いた。

「……あんなことしたら、警戒してもう湖上には出てこないわよ」


「それはこいつのシールドのせいだろ、あれがなければ仕留めてたんだ」

「……!!あのシールドがなかったら、この子は死んでたかもしれないのよ!」

「ぴーぴーうるせなぁ、冒険者なんてのは、弱けりゃ死ぬんだよ!」

「なんですって!!」


「あの……」

 その時、意識を取り戻したラッティが、か細く口を開いた。


「出てこないなら、引き寄せてはどうですか?」



   ◇ ◇ ◇


「ここならよさそうっすね」


 岩がなく土と砂利が広がるほとりへと移動したチームEの面々。

 ラッティの手には即席で作られた木製のスコップ。


「何をする気だ?」

 ──壁上の生徒たちは不思議そうにモニターを見つめている。


「それじゃあ、いきます!!」

 そう言うと、ラッティは勢いよく穴を掘り出した。


「《バイパワー》!!……《ヘイスト》!!」

 キャールの補助魔法を受けたラッティは、猛スピードでスコップを動かし、瞬く間に穴は広がっていった。


「……たく、こんなバカな作戦、よく思いつくな」

「うるさい、黙ってなさい」



「はぁ、はぁ、はぁ……」

 数分後、その穴は建物がすっぽり収まるほどの巨大な穴になっていた。


「これくらいでいいわ、ラッティ、よくやったわね!」

 穴の上から声をかけたルールーは、隣のキャールとボムズに顔を向ける。


「いいわね、一発勝負よ」

「……了解」

「ふん」



  ◇ ◇ ◇


 配置に着いた3人は真剣な面持ちで湖をにらむ。

 そして、ルールーが号令をかける。


「キャール、やって!」

「オーケーいくよ、《ウォーターガン》!」

 

 キャールの水魔法が、湖と穴を隔てる土の壁へと勢いよく激突、すると──土壁に小さな穴が空き、湖の水が噴き出してきた──、と、次の瞬間、一気に土壁が崩壊し、濁流がラッティの掘った穴へと流れ込む。


「おおぉ!!」

 ──モニターを見る生徒たちは驚きに声をあげる。


 穴の両サイドに立つルールーたちは、真剣な眼差しでその濁流を見ていた。

 しばしの時間が経ったとき──、ルールーの目が大きく見開かれた。


「来るわよ!!」


「了解!」

 キャールはその声に合わせ、大きな魔導網を濁流に投げ込む──すると、次の瞬間、濁流に流された尖雷魚が現れ、勢いよく魔導網に絡まった。


「……くっ」

 その重さにキャールは顔をしかめる。


「今よ!打ちなさい!」

「うるせぇ、指図すんな!……《ボムズボム》!!」

 悪態をつきながらも打ちつけた魔導爆弾が尖雷魚に命中する。


 ドガァァァン!!

 爆風に吹き飛ばされた尖雷魚が空中へと跳ね上がる──そこへ、双剣を構えたルールーが高く跳躍し、斬りかかる!


「捌いてあげるわ、《三枚おろし》!!」


 斬撃が閃き、切り刻まれたモンスターの身体が三方向に裂けて地に落ちる。

 そして──ヴィィィィィィ……!!


 討伐完了の音が敷地内に鳴り響き、生徒たちは歓声を上げた。


『討伐完了──タイム、25分16秒!!』


「ちっ……お前らのせいで時間かかっちまったぜ」

「ふん……」

「へへ、やりましたね、先輩!!」



  ◇ ◇ ◇


「すごい作戦だったなぁ」

 アーシスが素直に声を漏らす。


「ああ、地形を活かした見事な作戦だ。なんだかんだ、最後は連携してたしね」

 隣のダルウィンも静かに頷く。


 戦術、魔法、連携──かかった時間よりも、その戦闘内容を誰もが評価していた。


(つづく)


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