【138】本校借り暮らし編② 〜混成チームと波乱の幕開け〜
──晴れ渡る早朝の空の下。
王都イシュヴァルの本校敷地。
新校舎と旧校舎の間に位置する広大なグラウンドには、本校・分校の全生徒が整列していた。
その中央、朝礼台の上に立つのは、本校教師のダンバイロン。黒の軍服に魔導拡声器を構え、腹に響く声を響かせる。
「いいか貴様ら!事前通達のとおり、今日からしばらく分校の連中がこちらに滞在する!揉め事を起こすなよ!」
──が、当然ながら本校の生徒たちはのんきそのもの。 あくびをかみ殺す者、鼻をほじる者、露骨に退屈そうな生徒もいた。
その空気に気づいてか、ダンバイロンは声を張る。
「両校、今後の衝突を避けるため、合同チームでの授業を行う!」
「え……?」
「合同チーム、って言ったか……?」
空気が一変し、生徒たちのざわめきが一気に広がる。
「初日から、さっそく合同授業か……」
アーシスは本校生徒たちの方を見つめ、拳を握りしめた。
「チームは四人一組のフォーマンセル!メンバーは魔道くじによる完全ランダムで編成した!!今からチームを発表する!……貴様ら、文句を言わずに動けよ!」
声が響くたび、ざわつく生徒たち。
そして──
◇ ◇ ◇
チーム分けされた生徒たちは、グラウンド各所に散らばり、それぞれチーム毎に集合。
◆ チームA:
アーシス / トルーパー / ナーベ / レイキュン
「ナーベ!一緒のチームだな!」
アーシスの声に、ナーベはぱっと頬を染めて頷いた。
「……う、うん」
「いやー、知らない人だけだったらどうしようかと心配したぜ〜」
そう言いながら、視線をゆっくりと隣に送るアーシス。 そこに立っていたのは、剣を背負った無表情の少年。
「……トルーパー。一緒のチームだな」
「……ああ」
トルーパーは無表情のまま小声で返答した。
「ちょっと、あんた無愛想すぎ!一緒のチームなんだからしっかり挨拶しなよ!」
突然、トルーパーの隣から、セミロングの黒髪を揺らして元気の良い女の子が突っ込みを入れた。
「あ、ちょっと〜、口元にケチャップついてる。朝からまたポテト食べたんでしょ、も〜」
そう言うと女の子は、慣れた手つきでトルーパーの口元をハンカチで拭き拭き。
「……」
まったく抵抗もせず、表情をいっさい変えずにされるがままのトルーパー。
「は!……ご、ごめんね〜。私はレイキュン、魔法専攻で炎魔法が得意だよっ。こいつとは幼馴染なんだ〜、よろしくね!」
きょとんとするアーシスとナーベ。
「ん?」
首を傾げるレイキュン。
「ははははっ……いやごめん、トルーパーのこんなとこ、はじめて見たからさ」
「あ〜、こいつ、クールぶってるからね。でもほんとはただの根暗だから」
「おい……」
さすがにトルーパーも小声で突っ込みを入れる。
「俺はアーシス、分校の剣士専攻、よろしくな!」
「うん、知ってるよ、君はこっちでも有名だからね〜」
レイキュンはニヤリと笑い、トルーパーに「ふふっ」と目線を向ける。
「わたしは、ナーベ……回復、補助系魔法が主魔法です」
「ナーベちゃん!女子同士、よろしくねっ」
◆ チームB:
ダルウィン / ファナス / ワフワフ / ココモ
「やぁ、久しぶりだね」
ダルウィンがファナスに声をかけると、ファナスは無言で頷いた。
「……君の剣の正義は、見つかったかい?」
「……そ、そんな簡単に見つかるか、探し中だ!」
顔を赤くしてそっぽを向くファナスをみて、ダルウィンは軽く微笑んだ。
「キャー!同じチームだよワフ!」
「キャー!だねコモ!」
その隣では、ピンク髪の双子が抱きついてじゃれ合っていた。
「……君たちは?」
「あ、私はワフワフ!氷魔法が得意な魔法少女!」
「サポート魔法は任せてね、妹のココモだよ!」
「ふふふ、美少女双子、見分ける方法は〜」
「ツインテールがワフ、巻き髪がコモだよっ!!」
「う、うん……よろしくね……」
◆ チームC:
ドムス / グリーピー / マルミィ / ミーニィ
「げっ……てめぇかよ」
「そ、それはこっちのセリフだぜ!」
グリーピーとドムスの睨み合い。その横で──
「マルミィ先輩〜!一緒で嬉しいです〜!」
ミーニィがぱあっと笑顔でマルミィに抱きつく。
「う、うん。よろしく、ね」
◆ チームD:
パット / プティット / ドナック / ディスティニー
「プティ、一緒のチームだね」
「ふん、今回は負けるんじゃないわよ」
相変わらずパットに厳しいプティット。
「お、俺はドナックです。せ、先輩、よろしくお願いします」
プティットの圧にたじたじなドナック。
その少し後方、1人静かに佇む黒いロングマントの女生徒。綺麗な白髪が風でなびいて見せた美しい顔に、パットは思わず頬を赤くする。
「や、やぁ。一緒のチームだね。僕は分校二年のパット。君は?」
鼻の下を伸ばして美少女に話しかけるパットの脇腹を、プティットが思い切りつねる。
「いてっ!」
「……ふん」
「……私は、ディスティニー。本校二年の魔法使いです。よろしくお願いします」
「え……」
目を丸くするパットたち。
──真面目な顔で挨拶を返すディスティニーは、パットではなくグラウンドの隅のかかしに話しかけていた。
「あの……それ、かかしですよ……?」
恐る恐るパットが話しかける。
「はっ!……失礼しました、つい」
恥ずかしそうに答えるディスティニーを見て、三人は思った。
(この人、キツめの天然かな……)
◆ チームE:
ルールー / キャール / ボムズ / ラッティ
「ルールー、一緒のチームだね」
細身の長身男子生徒がルールーに話しかける。
「キャール、私の言うことをしっかり聞くのよ!」
「はいはい」
おだやかな表情のキャールは、慣れた様子で返事を返す。
「あの、俺は分校一年のラッティ!アーシス先輩の弟子で剣士希望です!よろしくお願いします!」
勢いよく挨拶をするラッティ。
「アーシスの?……せいぜい役に立つのよ」
「うす!」
「……なんだぁ、弱そうなヤツばっかじゃねぇか!」
贅肉のついた腹を揺らしながら、短髪の男子生徒が悪態をついてきた。
「ボムズ……。チーム戦なんだから、勝手するんじゃないわよ」
「うるせぇ!リーダーぶってんじゃねーぞブスが!」
「なんですって!!」
「まぁまぁまぁ……」
睨み合う2人の間にキャールが入る。
(……大丈夫なのか、このチーム……)
ラッティが不安げな表情を浮かべた時、ボムズがくるりと振り返った。
「おい坊主!足を引っ張ったら殺すからな!!」
「……!!」
◆ チームF:
シルティ / アップル / ポメラニアン / チャーシュー
「やったー!シルティと一緒だぁ〜」
シルティに飛びつくアップル。
「わたしたちが揃えば、優勝だね!」
「だな」
タタタタタタ……。
そこに駆け寄る1人の少女。
タッ、ドテッ。
「痛てて……」
「あ、あの、私は本校一年のポメラニアンと申します。趣味は、じゃなくて、得意魔法は攻撃系です。よ、よろしくお願いします!」
(うん、ドジっ子だな)
アップルとシルティは即座に理解した。
「やぁ〜、レディたち。ミーたちは同じティームだね」
尖った垂髪をなびかせて、1人の男子生徒が近づいてきた。
「ミーはチャーシュー=メーン。ユーたちのサポートはミーにお任せっ」
ウィンクを飛ばしてポーズを決めるチャーシュー。
(うん、キモい系だな)
アップルとシルティは即座に理解した。
◇ ◇ ◇
その他にも数チーム、フォーマンセルが組まれ、全チームの顔ぶれが揃ったグラウンドに、再び魔導拡声器の声が響く。
「よし、挨拶は済んだな!今日の授業は、モンスター討伐だ!!ランダム模擬戦場へ転送する!!気合入れていけ!!」
光が生徒たちを包み込む。
借り暮らし初日の授業、波乱の幕開けである。
(つづく)




