【135】盗賊団襲来!冒育の危機編④ 〜決戦、終局へ〜
曇天の空の下──
その中央で、白亜の巨躯がうごめいていた。
校庭を踏みしめるたび、大地が軋み、瓦礫が崩れる。
切断された首はみるみる再生し、今また、三本の尻尾がゆらりと空を裂いて揺れる。
「……なにをしても、無駄なのか……」
アーシスが歯を噛みしめた。
頭を落としても尻尾を斬っても、数秒後には再生。
まるで“不死”。
いや、自然の摂理を超えた、何か別の存在──
「どうすれば、倒せる……」
その言葉がこぼれた直後だった。
ズバァァァン!!!
モンスターの口が裂け、放たれたのは、蒼白く収束されたエネルギービーム。
空気を焼き裂きながら一直線に射出される。
「みんな、よけろ!!」
アーシスの叫びと同時に生徒たちが跳ね散る。
光線に触れた草地が一瞬で消し飛び、かろうじて動けなかった負傷者たちは、マルミィの《セイフガード》の中で救われた。
「こんな化け物が……!」
続いて、モンスターの三本の尻尾が天から振り下ろされる。
雷鳴のような衝撃と共に、地面が揺れる。
ダルウィンとシルティが交差する剣撃で一撃を弾くが、衝撃波に吹き飛ばされる。
「……グッ!」
マルミィは防御結界を再展開し、アップルはその後方で《リフレクティア・ライト》を詠唱。広範囲回復を維持し続けていた。
「……くそ」
アーシスは思考を巡らせる。
まだ体力は残っている、モンスターの身体を切り落とす自信もある。
──しかし、切り落としても身体は再生する。
闇雲に斬り続ければ、いつかは倒すことができるのか──それとも……。
答えは出なかった。
その時──
アーシスの肩から、にゃんぴんがすっと浮かび上がった。
その小さな身体からは、青白い光がにじみ出ている。額には、見たこともない紋章が浮かんでいる──そして、その瞳が鋭くモンスターを見つめる。
「……にゃんぴん?」
アーシスが声をかけるが、にゃんぴんは集中したまま、まるで“視て”いた。
「……見つけたにゃ」
「え?」
「アーシス、あそこにゃ!尻尾の付け根を狙うにゃ!そこにやつの"核"があるにゃ!!」
全員がその言葉に息を呑んだ。
「よし……シルティ、ダルウィン、援護を頼む!!」
剣を強く握りしめ、アーシスが一気に駆け出す。
モンスターが、三本の尻尾を振るって迎え撃つ。
「《ジャスティス・クロウ》!!」
ダルウィンが振るった剣から、鳥の羽ばたきのような光刃が生まれ、アーシスの周囲を守るように旋回する。
「行け、アーシス!!」
守られた“光の道”を駆け抜け、アーシスはモンスターの正面にたどり着く──が、その巨体が口を開いた。
牙の列。
喰らいつこうとする本能の動き。だが──
「《双牙閃》!!」
空から紅の閃光が舞い降りる。
シルティの両手剣が連撃を叩き込み、モンスターの口を十字に切り裂く。
「グギャアアアアア!!」
苦悶の咆哮を上げ、モンスターの動きが止まる。
「今だ、アーシス!!」
シルティの声に目線で返事をしたアーシスは、大きく跳躍し、回転しながらモンスターの背面へと回り込む。
「あそこにゃ!!」
「よし、にゃんぴん、頼む!!」
「お任せにゃん、全力で行くにゃん!」
にゃんぴんは宙を舞い、真っ黒な炎の塊をアーシスの剣に落とす。
「行くぞ!……《黒炎剣》──!!」
黒炎を纏った刃が、尻尾の付け根を深く、深く斬り裂いた。
──パリンッ。
何かが砕ける音。
そして、全身を駆け巡る異音と共に、モンスターの動きが止まった。
「……!?」
次の瞬間──
ゴゴゴゴゴゴ……!!
巨体が揺れ、崩れ始める。
尻尾、足、頭部すらも瓦解し、粒子のように白灰となって空へと消えていく。
アーシスの足元には、黒紫の煙がふわりと立ち昇っていた。 それを、にゃんぴんが静かに見つめていた。
「……なんだ、この手応え……」
異様な確信。
ただのモンスターではない──アーシスの本能がそう感じていた。
その時──
「アーシスぅぅぅぅ!!やったねぇぇぇ!!」
歓喜の声と共に、アップルがダイブしてくる。
「うおっ……ぐふっ!?」
そのまま、アーシスは押し潰される。
「やった……!」
「勝ったん、ですね……」
「ひとまず……これで終わり……か……」
ダルウィン、シルティ、マルミィ、パット、プティット……
仲間たちが傷だらけのままアーシスのもとに集まり、安堵の息を吐いた。
だが、その勝利の陰に、誰もが忘れられない問いがあった。
「……あのモンスター、なんだったんだ……?」
シルティが口に出したその問いに、誰も答えることはできなかった。
「おーい!大丈夫か、お前ら!!」
遠くから、教師たちとヴァード隊の駆けつける声が聞こえ始めていた。
(つづく)




