【134】 盗賊団襲来!冒育の危機編③ 〜絶望の刻〜
砂煙が薄く残る校庭の中央。
白亜の巨体が、ゆっくりとその姿を現す。
四足歩行。白く滑らかな皮膚。三本の長大な尻尾。
額には黒紫の紋様が脈打ち、うっすらと瘴気のようなオーラを放っていた。
その異様な存在を背に、盗賊の頭目が勝ち誇ったように叫んだ。
「ハーッハッハッ!!行けぇ、人造モンスター!!あいつらを皆殺しにしてやれぇぇぇ!!」
だが──
……モンスターは、動かない。
「……?おい、何やってやがる、行けっつってんだろ!」
苛立った頭目が蹴りを入れようとモンスターに近づいた、その瞬間だった。
──ギシュン!!
三本の尻尾が一斉に振るわれ、風を裂いて男を絡め取り、次の刹那には──
ドォン!!
頭目の体は、弾丸のように吹き飛ばされ、校庭の外壁に突き刺さった。
ゴゴ……パラパラ……
崩れた瓦礫の中、白目を剥いたまま、頭目は静かに崩れ落ちる。
「……ッ!」
空気が、張りつめた。
皮膚があわ立つような威圧感が、生徒たちの全身を包み込む。
その巨体が、ゆっくりとこちらを向く。
らんらんと輝く瞳が、アーシスたちを捉えた。
「──来るぞ!!」
アーシスが叫んだ瞬間、尻尾の一閃が襲いかかる。
「ッく!」
ダルウィンは剣で受け止めるも、衝撃で十数メートル吹き飛ばされた。
シルティは跳躍で回避し、マルミィは即座に《プロテクト・シェル》を展開するも──
バギィィィン!!
防御結界が一撃で粉砕された。
「くっ……なんてパワー……!」
「どいて!」
後方で詠唱を終えたプティットが、魔導陣を構えた。
「《紫の電蛇〈サンダー・スネーク〉》!!」
うねる雷蛇が尻尾をすり抜け、本体を捉えた──!
バシュウウウッ!!
──だが、モンスターは、傷ひとつ負わない。
「吸収……した……?」
アップルが青ざめた声でつぶやいた。
「……魔法耐性、高いです……」
マルミィの声にも、冷や汗がにじむ。
次の瞬間、モンスターの口元が裂け、吸収した雷が砲撃のように吐き出された。
「危ない!!」
マルミィは防御魔法をプティットの前に投げつける。
バギィィン!!
ギリギリで直撃をそらしたが、衝撃でプティットは膝を突き、言葉を失った。
──張り詰めた空気
ジリ……と誰もが後退りしかけたその時──
「《スピードブースト》!!」
アップルが魔力を注ぎ込み、アーシスとシルティの身体が光に包まれる。
「魔法がダメなら、斬るしかないでしょ!」
──その刹那、シルティは即座に駆け出していた。
「《疾風閃》!」
高速の踏み込みと共に、光の刃がモンスターへと伸びる──
だが!
──ビシュン!
右から襲う尻尾が、シルティをなぎ払おうと迫る。
「やらせるかよッ!!」
アーシスが割り込み、尻尾を剣で弾いた……が。
「もう一本、来るぞッ!」
左から、もう一本の尻尾が襲う。アーシスの防御は間に合わない──!
──グシャァ!
間一髪、その尻尾を貫いたのは、ダルウィンの投げた剣だった。
「隙、だらけだな……」
血をにじませながらも、ダルウィンは口元を歪める。
そして最後の一本──
「くらえ!!」
シルティが渾身の一撃で、尻尾を真っ二つに叩き斬る。
ズバァァン!!
千切れた尻尾が地面に落ち、砂埃が舞う。
「ナイス、シルティ!!」
「よし、切れるぞ!」
「残りも叩き斬る!!」
希望が芽生え、生徒たちの士気が一気に上がった──その矢先。
「……ま、待って!!」
アップルが絶叫した。
アップルの目線の先──切られたはずの尻尾の断面から、ニョキニョキと白い肉片がうごめき、みるみる再生されていく。
「……再生……だと……?」
パットが呆然とつぶやく。
「と、とにかく、切るしかない!」
アーシスの掛け声と共に、剣士たちは立ち向かう。魔導士たちは、バフ魔法、防御魔法、回復魔法で支援。
次々と尻尾や足を切り刻んでいく。
──しかし、切られた箇所は瞬く間に再生がはじまる。
「……くそ、頭を落とすぞ!ダルウィン!!」
「おう!」
アーシスとダルウィンが互いをカバーし合いながら突き進む。さらに、
「シルティ!!」
シルティも加わり、三人は突進、モンスターの顎下へ一気に踏み込む。そして、
「《フライトバースト》!!」
アップルの風魔法が三人を宙へ押し上げる!
「いっけぇぇぇぇっ!!」
三剣が輝き、モンスターの首元に振り下ろされた──!
ズバアアアアァァァァン!!
巨体の首がもがれ、地響きを立てて地面に落ちる。
──辺りが静まり返る。
「……やったのか?」
アーシスが警戒しながら近づこうとした、その時。
──ギュワアアアアアアアアアッ!!
切り落とされた首の断面から、新たな頭部が再生されていく。
「ま……まじかよ……」
「再生……頭まで……!?」
「くそ、どうすりゃいいんだ、こいつ……!」
誰もが絶望に呑まれかけた、その時。
……ぴょん。
唐突に、アーシスの肩に何かが乗った。
ふわりと浮かぶ小さな丸い生物──
にゃんぴんだった。
その瞳が、じっとモンスターを見据えていた。
(つづく)




