【133】盗賊団襲来!冒育の危機編② 〜反撃の咆哮〜
「こっちでござる!」
ナスケの案内のもと、アーシスたちは校舎裏の細道を全力で駆け抜けていた。
急なカーブを曲がった先、風が巻き起こり、砂塵が視界を覆う。
その先に、倒れている人影が見えた。
──(遅かったか……)
誰もがそう思った。
だが、倒れている影は一人ではなかった。……三人、四人、五人……そして、その中心に立ち尽くす一人の影──急に吹いた突風が砂煙を吹き飛ばし、姿が露わになる。
「ぜぇ、ぜぇ……なんだ、お前らか」
血に濡れた制服。肩で息をしながら、それでも剣を握るグリーピーが、そこに立っていた。
「グリーピー……お前がやったのか……!?」
アーシスが驚きと共に問う。
「他に誰がいるんだよ、アホか」
毒を吐きながらも、グリーピーはその場を動かず、立ち続けていた。
「へぇ……やるじゃん」
アップルがそう言い、淡い癒しの光を彼に向けて放つ。
治癒魔法がグリーピーの傷をなぞり、浅い切り傷を封じていく。
その場に、さらに三人の影が駆け込んでくる。
「アーシス!」
ダルウィン・プティット・パット。精鋭の二年生組が合流した。
「校門側の校庭……大規模な乱戦になってるみたいよ」
プティットが状況を報告する。
「一年生が応戦中……だが、長くはもたない」
パットが険しい顔で補足する。
ダルウィンがアーシスの肩に手を置き、真っ直ぐに見つめて言った。
「行こう」
「ああ……」
アーシスは目を細め、仲間たちを見渡した。
「俺たち《冒険者育成学校》にケンカ売ったこと、後悔させてやる」
◇ ◇ ◇
その頃、校門側の校庭では──
長引く戦闘により、戦場は荒れ果てていた。
一年生たちはほぼ全員が傷つき、C組の四天王たちでさえ、膝をついて肩で息をしている。
「もう……マナが、限界……っ」
ヒーラーたちは魔力を使い切り、魔導石は空っぽ。戦える者の方が少なくなっていた。
「オラオラオラァッ!!」
プルーが最後の力を振り絞って拳を振るう。
ナックルハンマーが唸り、盗賊をなぎ倒す。
「……くそ、タフな奴め……」
後退りする盗賊たち──その背後から、仲間の盗賊たちを押しのけてマンモス級の巨体が現れる。
「どけ……」
ダイヤモンドナックルを握るその男の顔には、髑髏のタトゥーが刻まれ、ギロリとプルーを睨みつけた。
さらに──
「囲め!!」
頭目の言葉を受けると、盗賊たちがはプルーを囲んだ、──と同時に、大男がプルー目掛けて一直線に突進してくる。
「うらァ!!」
重すぎる一撃。プルーは両腕で受け止めたが、肩当てが砕け散り、衝撃で吹き飛ばされる。
「プルー!!」
ラッティはプルーに駆け寄ろうとするが──ドガッ!盗賊の一人に強烈な膝蹴りを叩き込まれる。
「どこ行く気だ、坊主ぅ!!」
「ぐふっ……」
踵で顎を蹴られ、ラッティは血を吐いて地面に倒れ込む。
全体の士気が崩れた。
(もう、終わりか──)
誰もがそう思った、その時。
──ズバァァン!!!
「そこまでだッ!!」
雷鳴のような声が戦場に響いた。
校庭の隅。アーシスたち、精鋭の二年生が現れる。
風を裂いて立つその姿に、生徒たちの目が希望で輝いた。
「ようやく出てきやがったな……!」
頭目が歯ぎしりしながらアーシスを睨む。
「あの時の恨み……忘れてねぇぞ!あの屈辱……倍にして返してやるよ!」
「……ん?……あの時って、いつ?」
アーシスは首を傾げて、本気で思い出せない様子を見せる。
「テメェ!!コケにしやがってぇぇぇ!!」
怒りのままに、頭目が吠え、盗賊たちが一斉に突撃を開始する。
「来るぞ!」
シルティが叫び、全員が構える。
その一瞬の後──
「《アースクエイク》!」
マルミィが空中に三重の魔法陣を展開し、大地に土の揺れを放った。
「……な、なんだぁ!?」
足元が崩れ、盗賊たちがドミノのように転倒する。
間髪入れずに飛び出したダルウィンとシルティが、前線に切り込んだ。
剣閃が唸り、混乱する盗賊たちを一人、また一人と地に伏せさせていく。
「……やるね」
プティットが火の弾を三つ、軌道を変えながら放ち、頭上からの追撃を重ねた。
「ちぃ……!」
盗賊たちは反撃に出るが、二年生たちの実力は一枚も二枚も上だった。
──だが、
「オラァァァァ!!」
髑髏タトゥーの大男が暴れ出す。
再び前線を蹴散らし、ダルウィンとシルティの前に立ちはだかった。
「……おっと、これはこれは、初めまして。大きな人」
ダルウィンが微笑みながら剣を構えると、シルティが一歩前に出た。
「……君がやるかい?」
ダルウィンが問いかける。
しかし、シルティはそっと剣を鞘に戻し、背を向けた。
「いや、わたしの出る幕じゃない」
「なにぃ……?」
大男が眉をひそめた瞬間──
「"瞬雷の薔薇"!!」
空に轟く声と共に、マルミィの魔法陣が炸裂。
雷が閃光となって降り注ぎ、大男の頭部を直撃。
閃光の中で、巨体が震え、口から煙を吹きながらガクリ、と膝をついて崩れ落ちる。
「……!」
──圧倒的。
盗賊たちの野望が、雷と共に地面に沈んだ瞬間だった。
場に静寂が戻ったかと思われたその時──
「……お前の相手は、俺だよな?」
アーシスがゆっくりと頭目の前に歩み出ていた。
「く、くそがぁ!!」
頭目は目を血走らせながら、懐から魔石のような物体を取り出し、地面に叩きつけた。
パリンッ!!
「!?」
割れた瞬間、辺りに煙が立ち込め、地面がゴゴゴゴゴ……と唸り始める。
「……な、なんだ!?」
煙の中から、白い巨体がぬるり……と現れた。
節々に黒紫の紋章が刻まれ、明らかに“この世の生き物”ではない、異様な気配を放っている。
モンスターではあるようだが、見たことのない造形──
「な……なんなんだこいつは……」
アーシスたちは、このモンスターに普通とは違う何かを肌で感じていた。
──それは、この戦いの“本当の目的”を告げる存在だった。
(つづく)




