【132】盗賊団襲来!冒育の危機編① 〜開戦の鐘〜
その日は、どんよりとした曇り空だった。
湿った風が校舎を包み、重く沈んだ雲が空を覆っていた。
──放課後。
生徒たちはそれぞれの場所で自由な時間を過ごし始めていた。校庭で遊ぶ者、教室で勉強を続ける者、寮へと帰る者……
──そんな穏やかな時を、突如として破壊する者たちがいた。
ガラララッ!
冒険者育成学校の正門が、音を立てて開かれる。
そこに現れたのは、荒れ果てた鎧と血のような紅布を身にまとう、粗暴な風貌の一団。
その先頭に立つのは──アーシスたちがかつて討伐した盗賊団の頭目、その男だった。
彼は歪んだ笑みを浮かべながら、堂々と校内へ足を踏み入れる。
「なんだお前らは……止まれ!」
警備に立っていた初老の守衛が、声を張り上げた──その瞬間。
ドガァッ!!
後方から現れた筋骨隆々の大男が、容赦なく拳を叩き込んだ。守衛の体が吹き飛び、花壇に激突する。
「どけ、ジジイ。邪魔だ」
その言葉が、襲撃の合図だった。
◇ ◇ ◇
校庭の端。
一年生のラッティ、ドナック、ミーニィの三人が、空球の練習に汗を流していた。
「そりゃああっ!」
ラッティが蹴り上げた球が高く舞い上がる。それをミーニィが軽い風魔法で引き寄せる。
「おいおい、力入れすぎだぞー」
「わりぃわりぃ、つい燃えちまってさ……」
のどかな空気に笑い声が交じる、その時──
「きゃああああっ!!」
遠くから、甲高い悲鳴が響いた。
「なんだ……!?」
「煙……?あそこ、正門のほうじゃないか!?」
声のした方向を見ると、黒煙の中から次々と現れる人影。
数十人の武装集団。
そして、引きずられるように連れてこられた血まみれの生徒。
その中心にいた男が、生徒の髪を掴んで地面へと放り投げ、咆哮する。
「アーシスとかいうガキはどこだああああッ!!」
「な……!?」
盗賊たちが次々と校庭になだれ込み、生徒たちに襲いかかる。
剣を抜く者、火球を放つ者──見境はない。
「ひ、ひぃ……!」
恐怖に飲まれた一年生たちは混乱し、その場で立ち尽くす。
教師もまだ到着していない。誰も、止める者はいなかった。
──否。
「うおおおおおおおおっ!!」
ラッティが叫びながら突撃。
大きく体を使って盗賊の一人に体当たりをかまし、吹き飛ばす。
「ここは通さないぞ!!悪党ども!!」
「チッ、ガキが……!」
ラッティの一撃に、生徒たちも息を吹き返す。
「行くぞ!!」
魔法、剣術、支援術が飛び交う。
だが──
盗賊たちは一筋縄ではいかなかった。
実戦で鍛えられた彼らは、目潰し用の粉や爆音のスクロール、毒気を帯びた煙玉など、禁じ手まがいの戦法で反撃する。
そして──
「ぐああっ!」
ラッティが背後から蹴り飛ばされ、地面に倒れ込む。
「ラッティ!!」
ミーニィが駆け寄ろうとした、その時。
倒れたラッティを、誰かががっしりと受け止めていた。
「……やれやれ、相変わらずお前は勢いだけだな」
姿を現したのは、一年C組の実力者、プルー率いる小隊。
「どこのどいつか知らねぇが、うちの庭でこれ以上好きなようにはさせねぇ……そうだろ?」
プルーの呼びかけに、ラッティはうめきながらも立ち上がり、叫ぶ。
「第二ラウンドだ……!!」
◇ ◇ ◇
一方、二年生の校舎近く──
グリーピーとナスケが並んで花壇の道を歩いていると、前から歩いて来た数人の盗賊たちと遭遇する。
「おいお前ら、アーシスとかいうやつ知ってんだろ?」
「あん?なんだお前ら」
その風貌をあやしみながらグリーピーは返す。
「うるせぇ、案内しろ!」
「……はいよ、こっちだよ」
一瞬、間を開けた後、グリーピーは振り返り案内をはじめる。
「え、グ、グリーピー殿!?」
「いいから付いてこいよ」
盗賊たちを連れて裏手へ誘導すると──グリーピーはふいに足を止める。
「……ん?なんだよここ、人の気配ねぇじゃねーか」
「……そりゃそうだろ、俺がお前らを誘い込んだんだからな」
グリーピーは振り返り、薄ら笑いを浮かべた。
「誰が、お前らみたいなアホに本当のことを教えるかよ。あいつは……俺が倒すんだからな」
「このクソガキがァ……!!」
盗賊が怒声をあげて剣を抜いた──!
◇ ◇ ◇
しばらくの後──
エピック・リンクの面々は、小さな園庭でベンチを囲み、お菓子をつまみながら談笑していた。
──そこへ、血まみれのナスケが駆け込んでくる。
「はぁっ、はぁっ……!」
「ナスケ!?な、なにがあったの!?」
アップルがすぐに《スピードヒール》を詠唱。
淡い光がナスケを包む。
「……アーシス殿、学び舎が、盗賊に……グリーピー殿が、囲まれて……!」
「……っ!!」
アーシスの表情が険しく変わる。
「案内しろ、ナスケ!」
エピック・リンクの4人が腰を上げた。
前代未聞の冒険者育成学校侵略──ナスケに案内されながら、アーシスたちも渦中へと飛び込んでいくのであった。
(つづく)




