【130】恋の伝言ゲーム?アーシス、モテ期到来!
──それは、ある晴れた日の朝だった。
冒険者育成学校・2年A組。
アーシス・フュールーズがいつものように下駄箱を開けたその時。
「……ん?」
中に、白く小さな封筒が一通。
可愛らしい猫のシールで封がされ、ほんのり花の香りが漂ってくる。
「……まさか、これって──」
目を見開いたアーシスは、その場に立ち尽くし……
「き、来たーーーーっ!!ついに来たぁ!俺の!モテ期ぃぃぃ!!」
校舎に響き渡る歓喜の叫び。
◇ ◇ ◇
2年A組の教室は、すでにラブレターの話でもちきりだった。
「ぐぬぅぅ、田舎者のくせに……」
怒りを露わにするグリーピーを嘲笑うかのようにアーシスは返す。
「おやおや、うらやましいのかい?グリーピーくん」
「ふん、どうせ誰かのイタズラに決まってる!」
「なにぃ!」
いがみ合う二人をよそに、女子たちもざわめいていた。
「えー、誰だろうね、差出人」
「アーシスくんってカッコいいもんね」
「優しいし、剣うまいし……」
その声を聞きながら、窓際の赤髪少女──シルティ・グレッチは、そっぽを向いて頬を赤く染めていた。
「……ふん、はしゃいじゃって、バカみたい……」
教室の片隅では、アップルとマルミィがそわそわ。
「アーシス、ほんとに人気あるんだね……」
「気になります、差出人……」
◇ ◇ ◇
──そして、放課後。
「来いって書いてあったのは……旧校舎裏、だよな」
手紙を手にしたアーシスは、こっそりと足を運ぶ。
だがその後ろ、草むらには──
「アップルちゃん、しーっ!」
「シルティ動かないで、ばれるばれるっ」
「ふ、ふん、どうせ大した子じゃ……ないはず……」
マルミィ、アップル、シルティの三人が潜伏中。
そして──彼女は現れた。
逆光にシルエットを浮かべる、一人の美少女。
ふわりと風に揺れる栗色の髪。
柔らかな微笑み。
「こ、こんにちは……先輩……」
(な、なんだこの美少女……レベルが違う……!)
草むらの3人は完膚なきまでに叩きのめされた。
「コ、コンニチワ」
声が裏返るアーシス。
彼女は顔を赤く染め、もじもじと。
「わたし……ずっと、先輩のことが気になってて……」
ドキ、ドキ──。
シルティたちは、その場面を固唾を飲んで見守っている。
「……ごめん、君の気持ちは嬉しいんだけど……」
アーシスは、ぎこちないながらもゆっくりと語りかけた。
キュン──
胸が締め付けられ、頬を赤く染めるシルティ。
(アーシス……)
「……でも……先輩しかいなくて……」
戸惑いながらつぶやく彼女に、アーシスはそっと返す。
「いや、君くらい可愛ければ、いくらでも……」
「好きなんです!!」
アーシスの話をさえぎり、彼女は叫んだ。
先ほどまでの物静かな雰囲気とは一転して、彼女は感情をあらわに──。
ひとみは潤み、頬はほんのりとピンク色に染まっていた。
「う、うん……」
彼女の表情を見て、アーシスの頬も赤くなっている。
(なにが「うん」だよ……!)
草むらからは、イラつきのオーラが溢れ出している。
「この気持ち、止められないんです……」
美少女が、ウルウルしながら呟く。
小さく震える肩に、アーシスは思わず手をかけようとする──
「好きなんです………シルティ先輩が!」
「う、うん……ん?」
一瞬、時が止まる。
次の瞬間、ズコーーッ!と草むらから三人が転がり出る。
「し、シルティ先輩、かっこよくて、素敵で……でも直接言えなくて……それで、アーシス先輩に……」
固まるアーシス。頭から、ぷしゅ〜と湯気が出る。
そこへ──
「だーっはっはっはっは!!」
現れたのはグリーピー。
腹を抱えて大爆笑。
「なにがモテ期だよ、ざまぁ見ろっての!!」
と、アーシスの肩をバシバシ叩く。
──しかし。
振り返るアーシスの顔は、……修羅の如き表情に変わっていた。
そして──
ホワイトソード一閃!!
数秒後、グリーピーはパンツ一丁で地面にうずくまっていた。
立ち尽くすアーシスにシルティたちが歩み寄ると、美少女はシルティに気づき、「きゃっ」と言って、恥ずかしそうにそそくさと立ち去っていった。
影をまといながら、まるで石像のように固まるアーシスに、マルミィが声をかける。
「ど、どんまい、です…」
「……ア、アーシスには、わたしたちがいるでしょ!」
アップルとマルミィに慰められながら、アーシスの“モテ期”は──幕を閉じた。
旧校舎の塀の上──。
かわいらしい小さな猫にじゃれつかれながら──にゃんぴんは尻尾をゆらし、のんびりと空を見上げていた。
「今日は、平和な日だにゃ〜」
(つづく)




