【129】単独任務:ダンジョンボス捕獲クエスト編⑤ 〜はじめての祝勝会〜
日が沈み、ウィンドホルムのギルド支部にも夜の灯がともる頃。
アーシスたち《エピック・リンク》の4人と1匹は、埃まみれのままギルドのカウンターに立っていた。
「──《夢操のグリムレイス》ファルマグス、捕獲完了っと」
アーシスがクエスト報告書をトンとカウンターに置く。
「…………え?」
書類を確認していたマーメルが、まるで目の前で地竜が二足歩行しはじめたかのような顔で、口をポカンと開けた。
「ちょ、ちょっと待って……本当に?本当に君たちだけで……?」
目を見開きながら声を漏らす。
「本当です。証拠も、こちらに」
マルミィが魔道具に収めた捕獲証拠データを提示すると、マーメルの瞳がさらに大きくなる。
「……う、嘘でしょ……」
その時、奥の部屋からパブロフがのそりと現れた。
「……やるじゃねぇか、お前ら」
細い煙をたなびかせながら、満足そうに目を細める。
「B級……それも捕獲クエスト。"普通の学生"じゃまず帰って来られない。だが……」
パブロフはにやりと笑った。
「お前たちは、もう"普通の学生"じゃないってことだな。──間違いなく、"次の時代を担う冒険者"だ」
その言葉に、アーシスたちは顔を見合わせ──自然と、互いの笑みがこぼれた。
◇ ◇ ◇
ギルドの裏手にある小さなバンケットルーム。
簡素な木のテーブルの上には、パン、チーズ、ハム、そして──ぶどう酒の瓶が数本。
「……いいのかな、飲んじゃって」
アーシスが恐る恐るぶどう酒のグラスを手に取る。
「報告は済んだし、正式な祝勝会よ!」
マーメルがにっこり微笑み、皆のグラスにぶどう酒を注いでいく。
「は、初めて飲みます……」
マルミィがドキドキしながらグラスを持つ。
「ちょっとだけなら、大丈夫……たぶん」
アップルもぎこちない笑顔でグラスを手にした。
シルティはいつになく静かに、アーシスの隣でグラスをじっと見つめている。
「それでは──エピック・リンク、初めての単独任務成功を祝して!」
「「「「かんぱーい!!」」」」
──乾杯の声が夜の天井に響いた。
◇ ◇ ◇
数十分後。
「……あっはは!アーシス、さっきのとこ、めちゃカッコよかった〜〜!!」
アップルがアーシスの肩に寄りかかりながら、頬を真っ赤にして笑っている。
「……んふふ、しょんなこと言われても……」
マルミィも隣で頬を紅潮させて、アーシスの腕にしがみついていた。
「……アーシス、今日だけ、特別……」
シルティがグラスを片手に、顔を寄せてくる。
「ちょ、ちょっと、みんな近い近いって……」
アーシスはあたふたしながら顔を真っ赤にし、汗をだらだら流していた。
そんな初々しい姿を見て、マーメルはくすっと微笑む。
──すると、アーシスは、
「……ええい!!」
グラスのぶどう酒をぐび、ぐび、と一気に飲み干した。
「……ふわぁぁ」
ドタン!
アーシスは目を回して、そのまま椅子ごと後ろに倒れた。
その様子を、テーブルの上からにゃんぴんが満足げに見下ろす。
「にゃ〜ん……これぞ"初陣祝い"ってやつにゃ」
こうして、《エピック・リンク》の記念すべき初単独クエストは、少し酔っぱらった温かさの中で、静かに幕を閉じた──。
(単独任務:ダンジョンボス捕獲クエスト編、完)




