【12】仮想ダンジョン攻略課題③ 〜ふたりきりの戦線〜
冒険者育成学校の広場に設置された巨大な魔法陣。
その中央には、薄く青白い光が立ち上り、まるで霧のように揺らいでいる。
「これが仮想ダンジョンか……すげぇな」
アーシスが感嘆の声をもらすと、隣でシルティが、「ぐ〜……」と腹を鳴らす。
「またかよ……はい、リンゴ」
「…ありがと……! しゃくしゃくっ……」
「お前、試験前に緊張しないの?」
「しゃくしゃくっ…」
そんなやり取りにマルミィとアップルがクスッと笑う。その空気を裂くように、グリーピーの声が響いた。
「随分余裕そうじゃないか、田舎者くん」
アーシスが振り向くと、貴族服に身を包んだ金髪の少年――グリーピーが腕を組んで立っていた。
「お前か、また何か言いに来たのか?」
「別に? ただ、お前がダンジョンの中で無様に倒れる姿を楽しみにしてるだけさ」
横には取り巻きたちが数人控えており、グリーピーはシルティの方をちらと見る。
「それにしても、シルティ。君がこんなやつと組むなんて、見る目を疑うね」
「私が決めたことよ」
「……ふん」
「アーシスくん、はじまるよ!」
アップルの声に皆魔法陣の方を振り返る。
「それでは、はじめえぇぇ!お前ら、死ぬなよぉぉ!」
ドルザック教官の怒号と共に魔法陣が光を強め、生徒たちは次々にダンジョンへと転送されていった。
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初日の課題は、ダンジョン内でモンスターを討伐しつつ素材を集め、ダンジョンボスを倒して最下層にある泉のほとりに咲く花 -オーロラフラワー- を採取してくること
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「俺たちも行くぞ!」
アーシス達も勢いよくジャンプして魔法陣に飛び込んだ、
─ 瞬間 ─
後ろから虹色に光る粉がアーシス達を包んだ。振り返るとそこには悪い笑みを浮かべるグリーピーが見えた。
◇ ◇ ◇
仮想ダンジョンへの転送が始まった瞬間、何かが狂った。
四人で挑むはずだったはずの冒険。
──しかし、目を開けたアーシスが見たのは、見知らぬ階層の岩壁と、深く薄暗い森のような通路だった。
仲間の姿は、どこにもない。
「……チッ、やられたか」
グリーピーの顔が脳裏をよぎった。
きっと奴が罠を仕込んでいたに違いない。しかも、転送を乱してパーティを分断するという手の込んだやり口だ。
アーシスはすぐさま動き出す。仲間を探すために。
──そして、しばらくして岩の通路を曲がった先。
「シルティ!」
剣を構えていたのは、あの無愛想な少女だった。
しかし、仲間と再会出来た喜びとは裏腹に、ため息混じりにアーシスは言う。
「……よりによって最初に出会ったのがシルティか…」
「……! わ、悪かったな。か弱い女子じゃなくて」
「いや、そーじゃなくて…」
「剣士だけのパーティ……、
残りの回復薬は……2個…」
「……」
「……」
「ふふ、腕がなるぜ!!」
こんな状況をも楽しもうとするアーシスを見て「ぷっ、」とシルティは笑い出す。シルティの顔もどこか楽しそうだった。
そこから二人は、連携して進んでいった。
正面から襲いかかってくる獣型モンスターを、互いにカバーしながら切り裂く。
アーシスが前へ出れば、シルティが横をカバーする。阿吽の呼吸。まだ組み始めて日も浅いが、信頼の芽は確かに根付き始めていた。
──だが 、
それは、突如として襲ってきた。
薄暗い広間、壁から伸びたツタの上を滑るように現れた魔獣が、咆哮と共に飛びかかる!
「あっ!」
「シルティ!」
足を滑らせたシルティを、アーシスが滑り込みながら庇う。
ギィィィンッ!
剣と爪が激突し、火花が飛ぶ。その勢いのまま回転したアーシスは魔獣を真っ二つに切り裂く。
「大丈夫か!?」
「……ああ、すまない。かすり傷だ」
だが、太ももには薄く裂けた傷がにじんでいた。
アーシスは迷わず回復薬のひとつをシルティの脚にかけた。
「お前、大切な回復薬を……!?」
「ばーか、んなもん気にすんな」
にっと笑うアーシス。
その笑顔に、シルティの胸が一瞬、跳ねた。
「歩けるか?」
「……ああ」
だが、次の瞬間──
ふらり。
アーシスの背後で、シルティが大きくよろける。
「シルティッ!」
支えたその体は熱を持ち、傷口からは異様な紫の液が滲み出ていた。
「……ど、毒か……!?」
呼吸も荒く、目も虚ろなシルティ。
「(くそ、どうすれば…)」
焦るアーシスにシルティがゆっくりとら語りかける。
「わ、私のことは構うな……アーシス。あとの二人を見つけてくれ……っ。どっちかがいれば、回復魔法が……」
アーシスは黙ってシルティを見つめていた。
数秒の沈黙ののち。
「……わかった」
静かにそう言って、アーシスは立ち上がる。
「(これでいい……)」
力尽きるようにシルティはそっと目を閉じた。
◇ ◇ ◇
…しかし、何かの違和感に気づきシルティは目を開いた。
「……な、な」
目の前にいたのは、アーシス。
彼は――彼は、シルティの傷口に口を当てていた。
「よー、シルティ、目ぇ覚めたか?」
「お、お前はなにをしてるんだ!?」
顔を真っ赤にして叫ぶ。
「何って、毒を吸い出してるんじゃねーか」
「!!なぜそんなことを……」
「なぜって……死にそうなお前を置いてくことなんて出来ないだろ?」
どこまでも真っ直ぐなその言葉に、シルティは返す言葉を失った。
だがアーシスも無傷ではいられなかった。
「くそ……少し、毒がまわってきやがった……」
ふらりと座り込むアーシス。
「マルミィ、アップル……どこにいるんだ。くそっ、どっちかがいてくれれば……」
「(こんな所で終わりたくない…)」
「(この叫びが届くなら…誰でもいい……頼む、誰かに届いてくれ)」
アーシスは最後の力を振り絞って叫んだ。
「誰かーーーーーーーーーーーーー!!!!」
「……呼んだにゃ?」
寝起きの猫がぴょこっと飛び出してきた。
「あ…」
──にゃんぴんがいたのをすっかり忘れていたアーシスであった。
「にゃ?」
(つづく)
アップル「みんな〜、星の評価、よろしくね!!評価伸びたら、アップルちゃんの出番も増える、よね!?」