【127】単独任務:ダンジョンボス捕獲クエスト編③ 〜シャドウフィンドとの激〜
クルズの古城跡──。
その最奥に広がる、闇に沈んだ地下礼拝堂。
地を裂くような咆哮と共に、黒き影が跳ね上がる。
──実態を持たない幻影獣──シャドウフィンドに物理攻撃は効かず、アーシスの斬撃はすり抜けた。
「……物理、効いてませんっ!」
マルミィが叫ぶ。その間に、シャドウフィンドの影がアーシスの足元に広がった。
ズルリ、とその足元の影から触手のような影刃が伸び、アーシスの腰を横に打ち払って切りつけた。
「ぐっ……!」
よろけたアーシスをかばうように、シルティが間に入る。
「逃げて、アーシス!」
「くっ……悪ぃ!」
空中に黒い魔素が渦を巻く。次の瞬間、礼拝堂全体の明かりがふっと掻き消えた。
「《フォトンバースト弱体》だにゃん……!」
辺りが闇に沈む。
そこに──“声”が響いた。
「……ずっと、足手まといだと思ってたんだ……」
「!?……え……兄さん……?」
──それは、シルティの兄の声だった。
影から浮かび上がる、かつての面影。
シルティは思わず立ち尽くしてしまう。
「うそ……こんな幻……!」
──そして、
「きゃあっ!?」
アップルの悲鳴が響く。
シャドウフィンドが背後から迫っていた。
「アップル!!」
アーシスが咄嗟に飛び込む──!
ホワイトソードを水平に振り抜いた。
──しかし、またしても剣は空を切る。
「チクショウ……どこが弱点なんだ、こいつは……!」
「アーシスくん!下がって!」
マルミィが叫ぶ。その手には、魔導書と一枚の古びた羊皮紙。
「見つけた!……この魔物、"核"を持ってる!それを可視化しないと攻撃が通らないの!」
「核……!?でも、どうやって……」
「光、です!強い光を当てると一瞬だけ実体化して“核の揺らぎ”が見えるはず……!」
「それなら任せてっ!」
アップルが杖を高く掲げる。
ペンダントが青白く輝き、その魔力が天井の魔導結晶に走った──!
パァァァッ!!
強烈な閃光がダンジョンの闇を引き裂いた。
「はっ……」
影の幻も消え、シルティも我に返る。
──そして、幻影の装甲が剥がれ、胸元に紫色の光が露出する。
「見えた!魂核だ!」
「よっしゃ……行くぜ!」
アーシスとシルティは一気に地を蹴る。
──だが、
「ぐっ……!?」
足元からうごめく影が鎖のように絡みつき、二人の動きを封じた。
そこへ──ドス黒い尾がアーシスの背後から迫る!
「アーシスくん!」
マルミィが咄嗟に魔法障壁を展開。尾が激突し、爆風が巻き起こる。
アーシスの身体は吹き飛ばされるが、すぐさまアップルの癒しが包み込んだ。
「はぁ、はぁ……くそ、あぶなかった……!」
「……もっと、強い光が必要、です…」
マルミィは呟くと、アップルの方を向いて叫んだ。
「アップルちゃん、一緒にやりましょう!」
「わかった!最大級でいくよっ!」
アップルとマルミィは同時に光魔法の詠唱を始める。
リーネからもらったペンダントがまばゆく輝き──
「──《ルクス・イリディア》!!」
第二の閃光がシャドウフィンドを照らし、その幻影を完全に消し飛ばした!
「今だ!シルティ!!」
「おう!」
アーシスとシルティが疾駆する。
コア・シードが露わになったシャドウフィンドに向けて、渾身の一撃──!
「《ダブルスラッシュクロス》!!」
ザンッ──!!
二つの斬撃が閃光とともにクロスして突き刺さる。
──咆哮を残し、シャドウフィンドの身体が崩れ落ちる。
──影は霧散し、静寂が訪れた。
「……やったのか、俺たち……」
にゃんぴんが頭上でくるくると回りながら歓声を上げる。
だが──。
その瞬間、死体から紫色の禍々しい紋章が浮かび上がった。
「こ、これは……!」
「グリムレイスの印……!」
アップルの声が震える。
「やっぱり……ただの魔物じゃなかったんだな」
アーシスが剣の柄を握り直し、薄暗い天井を見上げた。
──風が吹く。
その冷たさは、次なる災厄の始まりを予感させていた──。
(つづく)




