表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
117/187

【116】斬剣祭《ザンケンサイ》編⑧ 〜最終決戦《前編》〜


 魔導スピーカーが重低音を轟かせ、特設闘技場「聖刃環セイジンファン」が最高潮の熱気に包まれていた。


 王都イシュヴァルの空の下、万を超える観客が固唾を呑んで見守る中──


「さあ!ついにやってまいりました、斬剣祭決勝戦!

最後を飾るのは、この二人──!!」


 実況の叫びと共に、中央に設けられた白銀の円形ステージへと、二人の若き剣士が姿を現す。


 一人は、漆黒のマントをなびかせる剣士、分校代表アーシス=フュールーズ。


 そしてもう一人は、静かなる猛禽、本校の孤高なる剣士、トルーパー=リビンズ。


「ぐぬぬ……この一戦だけは落とせん……」

 本校の応援席では、ダンバイロンが歯噛みしていた。

 一方、パブロフはただ、無言で煙草を咥え、闘技場を見つめる。


「うーむ、どっちを応援すればいいんだっけ……」

 観客席の片隅で、ダークデンジャーは顎に手を当てて首を傾げていた。


「……はじまりますね」

「……ああ」

 スターリーは薄暗い部屋で、男と2人、魔導モニターを見つめる。


「斬剣祭最終試合のステージは── 聖刃円環セイジンファン!!

最後はタネも仕掛けもない、荘厳なる剣舞闘技場だ!

勝敗を決するのは──剣技のみ!!」


 実況の叫びが会場に響き渡り、地鳴りのような歓声が湧き起こる。


 それぞれの控え席では、戦いを終えた生徒たちが、険しい表情でステージの2人に視線を送る。


 アップルとマルミィは祈るように手を握り、ナーベは不安の影をほんのりと帯びながらも、真っ直ぐにアーシスを見つめる。

 にゃんぴんはマルミィの頭の上に寝そべりながら、闘技場をちらりと見ている。


 ──それぞれの想いが交差する中心で、今、最後の戦いが始まろうとしていた。


「いけぇぇぇぇ!!アーシス!!」

 観客席からバペットが叫んだ瞬間──


「最終戦──開始!!」


 ついに審判が手を上げた。

 ──瞬間、アーシスは地を蹴り上げる。砂煙が巻き上がり、鋭い剣閃がトルーパーに迫る。


「速い……!!」

 控え席のルールーが叫ぶ。


 ──ガキィィン!!


 響き渡る金属音。

 アーシスの一撃は、寸分違わずトルーパーに受け止められた。


 アーシスはバク転で距離を取り、左右へ素早くステップ、残像を作りながら再び飛び込んでいく。


 だが──トルーパーは微動だにせず、その剣で迎撃する。


「……くそ」

 すぐさまアーシスは飛びかかり、上下左右から斬りつけるが、すべての剣は完璧に防がれる。


 控え席でダルウィンが眉をひそめた。

「……読まれている?いや、これは──」


 シルティが息を呑んだ。

「黒目が……揺れている?」


 トルーパーの瞳の奥で、魔力が脈動していた。


「うおりゃぁぁぁ!」

 アーシスは休むことなく攻撃を続ける。

 

 ──「……残念だけど、君の剣は届かないよ」

 観客席の隅でダークデンジャーが呟いた──。


「……ぐはっ!!」

 トルーパーの肘打ちが、アーシスの胸元へ突き刺さる。


 ──「──"先読剣"!?」

 薄暗い部屋で、スターリーが問いかける。


「……そうだ。生まれながらにその目に宿る、スキルギフテッド。彼の目には、相手の剣が届く前に──その剣筋が見えるんだ」

 静かに男は答えた。


「……!!」

 スターリーは振り返り、心配そうにモニターを見つめる──。


「ごほっ、ぐふ……」

 咳き込みながらも立ち上がり、アーシスは再び剣を構える。


「……無駄だよ。君の剣は、僕には届かない」

 トルーパーは冷たく言い放つ。


(……くそ、何か仕掛けがあるのか?)

 あまりにも正確で素早い反応に、アーシスも違和感を感じていた。


(……揺さぶってみるか…)

 ジリ、とゆっくり構え、そして──

「おりゃああ!!」

 アーシスは斬りかかりながらも、トルーパーの動きに集中し、観察する。


 アーシスのすべての攻撃が、剣を振る前に察知され、受け止められていく。


 大きく振り下ろしたアーシスの剣先が、半歩後退したトルーパーの鼻先ギリギリを通り過ぎる。


「……!!」


 アーシスは、肩で息をしながら距離を取った。そして──


「ふぅーーーーーーーっ」

 大きく息を吐いた。


「……ごちゃごちゃ考えるのはやめだ──剣が届かないのは、俺が"遅い"からだ……。

……なら、もっと速く、剣が届くまで速度を上げるまでだ!」

 ふっきれた表情のアーシスは、再び剣を構える。


「行くぞぉぉ!!」

 アーシスは大きく跳躍し、空中の魔導結界を蹴り、反動でトルーパーを急襲する。

 その速度は、常人の目では追えない。


 ──ギン!!

 ──ガッ!!

 ──ザッ!!


 空中と地上を駆け抜ける激突の連続。

 観客席が騒然とする中、アーシスは叫んだ。


「もっと速く!!もっと速く!!」

 血のにじむ足を踏みしめ、さらなる速度で飛び込む──。


 ──刹那。

 アーシスの剣が、トルーパーの頬を浅く切り裂く。


「……な──」


「……速さが、先読みを越えただと!?」

 ダークデンジャーが仮面の下で叫んだ。


 倒れ込んだトルーパーに、観客席からはざわめきと歓声が入り混じる。


 ──「よっしゃ!」

 スターリーが叫び、隣の男はにやっと笑う──。


 片膝を立てて立ち上がるトルーパーは、流れ落ちる血を手で拭いながら呟いた。

「はじめてだよ……こんなこと……」


「へへっ」


 剣を振り上げ、剣先をアーシスに向けながら、トルーパーはゆっくりと口を開く。

「僕の剣が、"受け"だけではないことを、見せてあげるよ」


 アーシスは剣を構え直す。

 歓声の渦の中、戦いは後半戦へと続いていく。


(つづく)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ