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【112】斬剣祭《ザンケンサイ》編④ 〜鋼の虫剣士、見参!〜


 魔導マイクが鳴り響き、特設闘技場「聖刃環セイジンファン」に場内アナウンスがこだまする。


 「第一試合、開始ィィィ!!」


 空中に浮かび上がったステージ、その名も《フローティング・ステージ》。

 足場が数十枚、空中に浮遊し、ゆらゆらと揺れている。風に煽られれば動く、不安定極まりない舞台だ。


 そこに、まず登場したのは本校の剛力剣士、ドムス=バンディス。

 鋼のような筋肉、樽のような胸板。ギラつく目に金属製の大剣を担ぎ、浮遊台に飛び乗ると同時に咆哮した。


「ウオオオアアアァァッ!!!」


 観客は大歓声。爆発的な熱気が巻き起こる。


 続いて登場したのは……漆黒の鎧に包まれた小柄な少年。

 黒光りするカブトムシのような甲冑、角付き兜。観客席は一瞬ざわつき、その名が呼ばれる。


「分校代表、グリーピー=ビネガー!!」


 グリーピーは、兜の角を誇らしげに掲げ、叫んだ。


「突撃の角、鉄壁の甲冑!鋼の虫剣士、見参ッ!!」


 堂々としたポーズを決めたグリーピー。

 が、応援席の仲間たちは沈黙。


「……なんだって?」

「虫がどうこう……?」

「角?」


 軽く額を押さえるアップルに、マルミィが小さく吹き出す。


(ふ、決まったな……)

 グリーピーは満足げな表情を浮かべている。


 ──グリーピーは、校庭の木にとまっていたカブトムシを見て戦法を思いついていたのであった。

 自分にはアーシスのような速度も、ダルウィンのような剣技もない。

 ならば、ただひたすらに守り──そして、反撃の一撃を狙う!


 彼は父親に頼み込み、この防具一式を特注してもらっていたのだ──。


「……戦闘、開始!!」


 審判の合図と同時に、ドムスが動いた。


「どりゃああああッ!!!」


 唸りを上げて振り下ろされる剛剣。

 グリーピーは構えていた双剣でガードする。金属が軋み、衝撃波が走る。


「ぐっ……!!」


 防御は成功した。だが、浮遊足場がぐらりと揺れ、衝撃の余波で後方へ吹き飛ばされた。

 床に転がるグリーピー。


「……耐えた……」

 唇を噛み、立ち上がる。


「おおっとぉ、これは……本校のドムス、有利なように見えるが、ステージとの相性はイマイチか!?」

 実況の声が入る。


 ドムスの豪快な攻撃は、地面が揺れるたびにタイミングを狂わされ、全力が出しきれない。


 しかし、攻撃が止まることはない。

 剣は容赦なく振るわれ、グリーピーはひたすらにガード。

 鎧が軋み、剣が欠け、兜にひびが入る。

 ──それでも、彼は立ち上がる。


「……あいつ、こんなに……根性あったのか……」

 思わず呟いたのは、アーシスだった。


「ぐはぁっ!!」


 もう何発目かわからないドムスの剛剣を受け止めたグリーピーの口から血が飛び散る。


「ぐ……グリーピー……」

 アップルが顔をしかめる。


 客席はざわついていた。

 一方的すぎる展開に引き気味の声が出始める。


「なんだあいつ、本当に剣士かよ?」

「防いでるだけじゃ勝てねぇっての」


 ズシャァァァァ!!


 数メートル後方へ吹き飛ばされ、隣の足場に叩きつけられるグリーピー。


 その体には亀裂、兜の側面は削れ、装甲が焦げ付いていた。

 傷だらけの身体、ふらふらの足…。

 しかし、グリーピーは立ち上がる。


「先生!このままじゃグリーピー死んじゃうよ!」

 アップルが叫ぶ。


 パブロフは手にした白旗を見つめていた。

 が──

「……いや、待て……」


 パブロフの視線の先。グリーピーの目は、まだ死んでいなかった。


 ボロボロの体。血まみれの顔。割れた鎧。だが、彼は立ち、両手の剣を再び構えた。


「これで終わりだぁぁ!!」


 ドムスが大きく振りかぶる。

 その瞬間──


 グリーピーの瞳がぎらりと光った。


「《角撃》!!」


 絶叫とともに、前傾姿勢から突進!

 兜の角が閃光のように走る。


 ドムスは驚き、間一髪で避けるが、肩口に角が突き刺さった。

「うがぁぁッ……!!」


「……この野郎ぉ!!」

 反撃の拳が振るわれようとした瞬間──


 パサリと、白旗が落ちる。

 グリーピーは、その場に崩れ落ち、動かなかった。


「試合終了!勝者、ドムス=バンディス!!」

 場内がどよめく。


 勝敗は告げられたが、怒りのおさまらないドムスはグリーピーに拳を振り上げ──


 ガシッ!

 ──その腕を、誰かが掴んだ。


「もう、勝負はついたはずだ……」

 アーシスだった。


「くそが……放せ!!」

 ──だが、ドムスの腕はびくともしない。


 逆にアーシスの眼差しが、獣を睨むような力を持っていた。


「……ちっ」

 舌打ちし、ドムスは背を向けた。


「グリーピー!!」

 駆け寄るアップルが、すぐに回復魔法を展開。


「……お前、すげぇよ」

 アーシスがグリーピーを背負いながら、仲間のもとへ戻る。


 そのとき、シルティがそっと呟いた。

「……男を見せたな、グリーピー」


 観客席からは拍手が広がっていた。


 それは、結果だけでは測れない勇気への讃歌だった。


(つづく)


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