【111】斬剣祭《ザンケンサイ》編③ 〜開幕!〜
王都イシュヴァル──冒険者育成学校本校のある栄光の都。
その一角に設けられた特設闘技場「聖刃環」は、すでに超満員の観客たちの熱気に包まれていた。
仮設された観客席には、一般市民からギルド関係者、王国の貴族たちに至るまで多種多様な顔ぶれが並び、空中には魔導浮遊カメラが何機もホバリングしながら各地へ実況中継を送っている。
魔導スピーカーから流れる実況のハイトーンボイスが、場内のボルテージをさらに引き上げる。
「いよいよ始まります!四年に一度の剣士たちの祭典、斬剣祭!!
本日は、剣技の名門・王都本校と、意地と誇りの分校による、5対5の団体対抗戦をお届けいたします!!」
場内がどよめき、拍手が巻き起こる。
「さあ──両校の代表選手、入場です!!」
金の扉が開き、本校代表の5人が揃って姿を現す。
「本校代表!まずは王国騎士団団長の娘にして、騎士の誇りを背負うファナス=ヴァイリン!!」
(キャーッ!!)
「続いて、剣を語らぬ寡黙なる天才剣士!
ギルド秘蔵の若き精鋭、トルーパー=リビンズ!!」
(おおおおおお……!)
ひとりひとりに注目が集まり、場内が大きく揺れる。
そして、反対側の銀の扉が開いた。
「対するは分校代表!!熱き闘志を剣に込める者たち!彼らが、挑む!!」
「まずは分校の切り込み隊長!"自由なる正義”を体現する剣士、ダルウィン=ムーンウォーカー!!」
「続いて、アルゼニア王国の名門、グレッチ家の四女、"紅蓮の牙"、シルティ=グレッチ!!」
歓声の中、両代表が中央で睨み合う。
火花のような視線が交錯する。
その背後では、本校顧問ダンバイロンが不敵に笑っていた。
「お〜いパブロフ、剣士でもないお前が顧問なんて、分校は相変わらず人材不足みたいだな。生徒がかわいそぉだぜ?」
その言葉に、パブロフは魔導タバコをくわえ、軽く鼻で笑った。
「相変わらずむさ苦しいな、ダンバイロン。いいから黙って見てろよ」
一方、選手側でも口撃は始まっていた。
「ふん、今年の分校はまともな見せ物になるのかしら?」
ルールーが蔑むように笑う。
「フフッ、ほんと、田舎剣士の寄せ集だな。シルティ、王都の"本家の力”を見せてあげるよ」
ペパールトがシルティを見下すように笑った。
「なんだとぉ…」
アーシスが一歩踏み出すが、横からダルウィンが腕を伸ばして制した。
「落ち着け、アーシス。ここで頭を冷やさない奴に、勝利はない」
「……ちっ」
観客席には、いつの間にかダークデンジャーがひっそりと潜んでいた。
「おぉ……おぉお……たまらん……!…この空気!…剣と剣のぶつかり合いこそ至高……!!」
まわりの観客は迷惑そうに距離を取っていた。
そして、分校応援席ではアップル、マルミィ、プティット、ナーベたちが手を振っていた。
「頑張れー!アーシスー!」
「ふぁいと、です……!」
他方、観客席のおじさんたちは酒を片手に話し込んでいた。
「どうせ、今年も本校が勝つだろ」
「ああ、あの天才もいるしな」
「でもなぁ、オッズが低くて儲かんねぇんだよな……」
その後ろで、一人の男が賭け札を握りしめていた。
「……あいつらなら、奇跡を起こすはずだ……。
………(じゃないと、全財産がおしゃかだ)……」
男の名はボペット。
アンセスターダンジョンでアーシスたちと出会った、小さな冒険者だった。
そして── 遠く離れたとある建物の一室。
光を遮る暗い部屋にただ一つ置かれた魔導モニターの前で、黒い影が映像を見つめていた。
「さて、どうなるかな……」
その隣には、静かに立つスターリー=ハイロードの姿。
(パブロン……あんたの教え子たちなら、きっとやってくれるよ)
「さあ、開幕だあああ!!」
実況が手を掲げ、試合のルールを魔導スピーカーで読み上げる。
「本試合は5対5の団体戦!先に3勝した方が勝者となる!」
「各試合ごとに展開される仮想フィールドはすべて異なる!!勝利の鍵は、地形を読み、技を通すことにある!!」
「そして、優勝校には「王剣の証」が贈られ、校舎に記念剣が飾られる!
さらに、個人MVPには「金剣の指輪」が授与される!
ギルドが次代のS級候補としてマークすること間違いなしだ!!」
観客は総立ち、歓声は天を衝く。
生徒たちは一旦ステージを離れ、控え席へと戻った。
パブロフは応援席で魔導タバコに火をつけ、黙って目を閉じる。
(さて……天才相手に、どこまでやれるかな)
「さああ!!それでは第一試合の開始だぁぁぁ!!」
「ステージ展開!!浮遊剣台!!」
轟音と共に、空中にいくつもの光の足場が出現した。
「第一試合!本校代表ドムス=バンディス!!」
雄叫びと共に筋肉の塊が飛び上がる。
「対するは──分校代表!グリーピー=ビネガー!!」
そして姿を現したグリーピーは、誰も見たことのない姿だった。
黒光りする漆黒のプレートアーマー。カブトムシのような兜、重厚な脚部装甲。
まるで戦闘機械のような異形。
「……なんだあれ……?」
「グリーピー……なのか……?」
驚く仲間たち。
その姿は、まるで異端の騎士──戦場の異物。
──激突の鐘が鳴る。
第一試合、開幕。
(つづく)




