【105】スカルシットフォレスト遠征編③ 〜閃光、森に轟く〜
ズズン……!
大地を割るような咆哮が森を揺るがした。
骨の翼を広げ、腐臭をまとわせた巨大なスカルドラゴンが、眼孔の奥に揺れる赤い光をアーシスとシルティに向ける。
「──っ!来るっ!」
「しま──っ!」
アーシスが気づいた時には遅かった。
骸骨の竜が振り下ろしたのは、爪に魔力を帯びた“断罪の衝撃”。
──だがその一撃が、アーシスたちの目前で弾かれた。
「《シールド・フォース》!!」
轟音と共に、淡い金色の光が楯となり、ドラゴンの一撃を押し返す。
すぐさま、次の詠唱が響いた。
「《アイスランス・ツイン》!」
氷の魔力が疾走し、二本の氷槍がスカルドラゴンの肩と翼に突き刺さる。
現れたのは、凛とした顔を保つアップルと、微笑みながら冷静に指を組むマルミィだった。
「アップル!マルミィ!……なんでここに!?」
「あんたねぇ、こんだけ派手に暴れてたら、遠くからでもわかるってぇの」
「ふふ……だいたい何かあると、アーシスくんです…」
四人の仲間が、再び揃う。
「よっしゃ……エピック・リンク、全員集合!」
「……久しぶりにやるか、合体攻撃!!」
みんなの目の色が変わる。
アーシスとシルティが構える。
互いの視線が交わった瞬間、すでに動き出していた。
「《ブレイサイド》《クイックフェザー》《マナチャージ》!!」
アップルが三重の支援魔法を同時に展開、光が巻き起こり、アーシスとシルティの身体が魔力の渦に包まれていく。
マルミィの詠唱が重なる。
「大地よ、脈を震わせ、我が器に力を──《テラ・ブースト》!! 《フレア・エレメント》《ルクス・シャワー》、合成・発射!」
地面が鳴動し、空気が焼ける。
火と光の波動が融合し、剣士ふたりの武器に宿る。
「アーシス、いっくぞ!」
「ああ、任せろ!」
スカルドラゴンが咆哮を上げ、両翼を広げて魔力のブレスを構えた。
それを見て、アーシスとシルティは同時に跳び出す。
疾風のごとき動きで、空中に跳躍。
炎の奔流が迫る直前、ふたりは中央で交差した。
「いけえぇぇぇぇぇっ!!」
「《クロス・エピック・ゲイザー》!!」
突撃するふたりの剣が、光と熱をまとい、交差しながら十字にドラゴンの頭部を撃ち抜く。
瞬間。
──轟音と閃光。
まばゆい爆発が森を白く染めた。
スカルドラゴンの頭部は、砕け散った。
巨体が、崩れ落ちる。
ドォオオォン……。
振動が森中に広がり、獣たちの遠吠えすら止まる静寂が訪れる。
剣を収めたアーシスが、ひとつ息をついた。
「……倒したか……」
「当然!」
元気良く答えたアップルの隣で、マルミィもにこやかに笑っている。
シルティはどこか得意げに、ふっ、と笑う。
サーシャは驚きのあまり、腰を抜かして座り込んでいた。
◇ ◇ ◇
「……まさか、本当にやっつけるとはな……」
その声は、遠く離れた丘の上。
担任のパブロフが、指で輪を作って望遠覗き道具のように片目を覗いていた。
「スカルドラゴンまでやっつけちまうとは……」
パブロフは魔導タバコに火をつけると、ふっと煙を空に吐き出す。
「──あいつら、もう“学生レベル”じゃねぇな……」
空はすでに夕暮れ。
光を失った森に、四人の姿が静かに佇んでいた。
彼らの冒険は、確かに今、"伝説"の一歩を踏み出し始めていた。
(スカルシットフォレスト遠征編、完)




