【104】スカルシットフォレスト遠征編② 〜激突!森の死王〜
「グオオオオオ……!!」
咆哮が森を揺らす。
腐りかけた骨の翼を広げ、口から赤黒い炎を吹き出す巨大な竜──
スカルドラゴンが、その異様な威圧感を持ってアーシスたちに迫っていた。
「……くそ、こいつ、桁が違うぞ……!」
剣を両手で握りしめたアーシスが、圧を受けながらも前に出る。
ゴウッ、と唸るような音を立ててドラゴンの尻尾が襲いかかる。
「くっ……!」
剣を構えて受け止めるが、重い。
ただの打撃に、身体ごと地面にめり込みそうになる。
くるりと反転したスカルドラゴンは、その顎を大きく開き、赤黒い炎を放った。
──とっさにサーシャはスクロールを開く。
「《マジック・シールド》!」
サーシャが投げた防御魔法。
それがなければ、2人は確実に焼かれていた。
「に、逃げよ……あっ」
背後に目を向けたサーシャの声が震える。
ゾンビとスケルトンが、退路を完全に塞いでいた。
「逃げ場が……!」
動けないサーシャにスカルドラゴンの鋭い爪が襲いかかる。
──アーシスは剣で爪を弾き、叫んだ。
「こいつは俺がやる!そっちは頼む!」
「……りょ、了解」
アーシスは尻尾を飛び越え、巨大なドラゴンに飛びかかり、剣を入れる。
「硬っ……」
すぐさまドラゴンは鋭い爪を振り落とす。
アーシスはアクロバティックに身体をひねって攻撃をかわし、隙をついて剣撃を打ち込む。
「す、すごい…スカルドラゴン相手に渡り合ってる……」
サーシャがアーシスの動きに目を取られていた瞬間──
ドン!
「きゃっ……」
ゾンビの投げつけた石がサーシャの肩口に当たった。
「……よそ見してる場合じゃないわね…」
サーシャは両手に短剣を構える。
「おらおらおらおらおらぁぁ!!」
アーシスは回転しながら懐に飛び込み、連撃を放つ。
わずかながらスカルドラゴンの肋骨が小さく砕けた。
「ググァァ!!」
怒ったドラゴンは尻尾を振り回す。
アーシスはタイミングを合わせ、回転ジャンプをしながら受け流す。
「よっ、へへ……慣れて来たぞ」
隙をついて剣を入れるが、弾かれる。
「くそ、アップルがいれば強化してもらえるのに、な!」
諦めずに剣を振り上げるアーシス。
スカルドラゴンは振り向きざま、赤黒い炎を吐きだした。
「にゃんぴん!」
「にゃっ」
にゃんぴんの火炎魔法がドラゴンの炎を打ち消す。
アーシスは爆風の中を滑空しながら加速し、その勢いのまま、スカルドラゴンの頭蓋骨に両足で蹴りを喰らわせた。
──ドラゴンの巨体はよろめき、木々をなぎ倒して森の中へと倒れ込んだ。
ズドォォォォォォォン。
「へへ…」
汗を流しながら、笑みを浮かべるアーシス。
──その時、
「きゃぁっ……!」
サーシャの叫び声が響く。
ゾンビの攻撃を受けたサーシャが転倒。
スケルトンの骨が四肢を押さえつけ、ゾンビが短剣を振り上げている──
「っくそ、間に合うか!?」
アーシスはポーチから何かを取り出し、力いっぱい投げた。
サーシャの方へと放物線を描いて飛んでいく色とりどりの物体。
振り向いたサーシャにも、それらが目に入る。
「…ミニ……りんご……?」
──その瞬間。
森の中からすごい勢いで何者がが飛び出して来た。
そして、サーシャの周りのモンスターたちを一気に剣で切り裂き、すべてのミニリンゴを口と両手で受け止めた。
「……!?」
サーシャは何が起こったのか把握できず、混乱している。
「シャリ、シャリ……」
倒れ込んだアンデッドたちの中心で、無言でミニりんごを食べはじめたのはもちろん、シルティだった。
「……うまくいった…」
アーシスはほっとため息をついた。
「ん?……アーシスじゃないか」
シルティもアーシスに気づく。
「お、おう…」
スカルシットフォレストの戦いがまだ終わっていないことに、二人は気づいていなかった──。
(つづく)




