【101】新入生の戦い編⑥ 〜後日譚 はじまりの一歩〜
放課後のグラウンドは、すっかり静まり返っていた。
結界は消え、乱戦の跡も魔導掃除班がきれいに片づけていく。
だが、そこに立つ少年たちの胸の中だけは、まだ熱が残っていた。
「……ふぅ……」
ラッティがベンチに腰を下ろし、頭に包帯を巻かれたまま空を見上げる。
頬にはまだ青痣が残り、制服も泥まみれ。
けれどその目は、誰よりも輝いていた。
隣ではドナックが無言で水筒を差し出し、ミーニィは頬を膨らませて涙ぐみながらも笑顔を見せていた。
「お前……ほんと無茶するな」
ドナックが呆れ顔で言う。
「ふふっ、でも……かっこよかったよ」
ミーニィがぽつりとつぶやくと、ラッティは顔を赤くして後頭部をかく。
「へへっ……だろ?」
その少し離れたところでは、プルーたち四天王が、ぐったりと地面に座り込んでいた。
「クソ……痛ぇ……」
フィーグが呻き、ベルエルは眉をひそめ、カーズはため息をつく。
その中心で、プルーは一人、空を仰いでいた。
(やべぇ……マジで……勝てねぇ相手だったな……)
思い出すのは、あの瞬間。ラッティの頭突きと、アーシスの腕に握られた時のあの力。
皮膚の下、骨まで響いてきた“格”の違い。
(くそ……エピック・リンク……けど──だからこそ、だ)
ゆっくりと立ち上がったプルーは、ラッティの前に歩み寄った。
「……おい、チビ」
「ん?」
「次は負けねぇからな」
拳をぐいっと突き出す。
ラッティは一瞬驚き、そしてにかっと笑って拳を合わせた。
「……ああ!こっちこそ負けねぇ!」
周囲から小さな笑い声と拍手が起こった。
◇ ◇ ◇
その後、校舎の外の広場で。
「──あんたたち、よく頑張ったわね」
アップルが笑顔でジュースを配り、
「まぁ、褒めてやらんこともない……!」
シルティが顔を赤くしながら肩を叩き、
マルミィは静かに一言、「……やるじゃない」
その一言が何よりの勲章のように感じられた。
◇ ◇ ◇
夜、高台から街を見下ろしながら、アーシスは一人思っていた。
(……俺たちも、そうだった)
泣いて、悔しがって、傷だらけになって、それでも立ち上がったから、今ここにいる。
「冒険者ってのは──」
背後からシルティがひょいと現れ、肩を叩く。
「世界を救うために力を使う、だっけ?」
「……ああ」
アーシスが笑う。
夜風が吹き、少年たちの物語は、また新たなページをめくった。
(新入生の戦い編、完)




