【9】夏祭り 〜星灯の夜に〜
暑い季節、冒険者育成学校の広場には色とりどりの提灯が吊るされ、風鈴の音とともに賑やかな笑い声が夜空に舞っていた。
「わーっ! すごいすごい! お祭りだぁー!」
浴衣姿で飛び跳ねるのは、アップル。赤いリボンが結ばれた金髪を揺らしながら、あちこちの屋台に目を輝かせていた。
「待て待て、アップル。転ぶなよ!」
アーシスは汗をかきながらその後を追う。まさか、夏祭りにここまで体力を使うとは。
「わたあめ! りんご飴! 焼きそば! ぜんぶ食べる!
そして──」
隣で、さらに殺気立った眼差しを向けていたのが、シルティだった。
「シルティ、顔が怖い……」
「フードエリア……まずは一番人気の“ドラゴン串”! 次に“スライムかき氷”! そして“魔獣焼きそば”のコンボ! 行くぞアーシス、祭りは戦いだ!」
「誰も勝負とは言ってない!」
一方、マルミィはというと、やや人混みに圧倒されながらも、浴衣の袖をそっと握りしめ、ふわりと微笑んでいた。
「アーシスくん……これ、似合ってるかな?」
青を基調とした浴衣に、金色の帯がきらりと光る。周囲の灯りに照らされて、彼女の長い髪がゆらりと揺れるその姿に、アーシスは思わず言葉を詰まらせた。
「お、おお……すごく、似合ってる。いつもの制服と違って、なんか……大人っぽいな」
「ふふ……ありがとう」
それを遠巻きに見ていたアップルは、またもや唇をぷぅっと膨らませた。
「なんであたしだけ、恋愛イベントが来ないのーーー!?」
「アップル……それ、声に出てるにゃ〜」
浴衣姿のにゃんぴんがふよふよと現れアップルの前を通り過ぎていく。
「いやぁ、夏祭りっていいにゃあ〜。金魚すくいに射的に、あと甘い物〜」
「…にゃんぴんちゃん、なんで浴衣着てるの?」
頭の上に着地したにゃんぴんにマルミィが話しかける。
「雰囲気にゃ!」
「ふふっ」
そんな中、ステージに明かりが灯った。
「お、始まるぞ。恒例、各クラス対抗“屋台自慢大会”!」
「屋台も戦い!?」
「戦い!」
1年A組の出し物は、アーシス&シルティの「ドラゴン串屋台」。
シルティが剣で捌いた肉をアーシスが焼き上げる。
「いらっしゃい! 一本一本、俺の命を削って焼いてるぜ!」
その熱意に圧倒され、客足は止まらない。
続いて、1年C組。プティットの「魔法占いの館」。
「貴様の未来? 知りたくば、壺に魂を預ける覚悟を決めるがいい……フッ、3分500ゼルミだ」
「高っ!」
そして極めつけ、アップルが単独で出した「アップルのリンゴ飴屋さん」。
「うちのりんご飴、ふわふわでつやつやで甘くて最高だよ! あ、あとアーシスくんには割引ね!」
「えっ俺だけ?」
「特別会員だから!」
「なにそれこわい!」
夜も更け、花火が空に咲くころ。広場の中央で、4人は肩を並べて座っていた。
「……楽しかったね」
「うん、めっちゃ食った」
「私は……ちょっと勇気出して、浴衣着てよかった」 「……あたしも! お祭り満喫できたし……来年もみんなで来れるといいね」
「おい待て、その前に、テストがあるぞぉ!」
「「え〜〜!」」
花火が夜空を焦がす中、笑い声がいつまでも響いていた。
──そして、彼らを待ち受けるのは、次なる試練。
"仮想ダンジョン編"、開幕である。
(つづく)