【プロローグ】旅立ち
魔王が討たれてから、十年。
誰もが待ち望んだはずの平和な世界は、訪れていなかった。
むしろ世界は、より深い混沌へと沈んでいった。
——各地に出現する未知の《ネーオダンジョン》。
——絶え間なく溢れ出す魔物たち。
——国境をめぐる睨み合い。
——治安の乱れと、跳梁跋扈する盗賊団。
地政学者たちは言う。
「魔王の残滓たる“黒紫のマナ”が、世界の均衡を歪めているのだ」と。
それでも——
魔王を討った英雄たちに憧れ、冒険者を志す若者は後を絶たなかった。
人々は争い、誇りをかけ、競い合い、再び剣を取る。
世は、まさに
"大冒険者時代"。
一方で、王国軍は盗賊狩りすら満足に行わず、国々は領土拡大を目論み睨み合う。
ダンジョン。魔物。冒険者。盗賊。軍隊。ギルド。国。戦争——
かつての戦乱に勝るとも劣らぬ、乱世の幕開けだった。
そんな世界に生きる俺の名は、アーシス=フュールーズ。 駆け出しの剣士見習い、十五歳。——冒険者志望だ。
◇ ◇ ◇
辺境の村。
豊かな自然に囲まれた小さな集落、「風の村トワレア」。
その村外れ。森の入口の丘にぽつんと建つ、古びた家から、今日も一人の少年の声が響いていた。
「俺は、ここを出て冒険者になる!!」
小さな椅子の上で胸を張るアーシスに、爺がため息をつく。
「……またその話か。そんなに弱くて冒険者になれるか」
「う、うるせぇ!」
「それに……お前が出ていったら、誰がワシの飯を作るんじゃ!」
「知るか!!」
………。
「……ぐふっ、げほっ、げほっ」
いかにも弱った素振りで咳き込む爺。しかし——
「ダメダメ、爺が超健康なのはバレてんだよ」
昨年の健康診断書をぴらり、と突きつけるアーシスに、爺は舌打ちを返す。
「ちっ……」
しばし睨み合い。
やがて、ふっと爺は笑った。
「……お前も、今年で十五か。血は争えんな」
「え?」
「まあいい。だったら、こうしよう。ワシに一太刀でも入れてみせろ。できたら、冒険者になることを認めてやろう」
アーシスの目が変わる。
「よっしゃあ、やってやるぜ!!」
◇ ◇ ◇
──結果。 ボコボコにされた。
「はい終了〜。はよ飯作れ、坊主」
あえなく床に転がるアーシスを見下ろし、爺は笑う。
◇ ◇ ◇
「くそっ、ダメだ……」
くたびれた身体で台所に立ち、野菜を炒める。
その時——耳元にふわりと声が届いた。
「情けないにゃあ」
「……うるせっ」
振り返ると、肩にちょこんと乗っているのは、手のひらサイズの半透明の存在——青いモフモフ、《にゃんぴん》だった。
「アーシスも、十五歳。そろそろ、時が来たかもにゃ〜。僕の力、貸してあげるにゃ」
「……あ?」
指先から、ぽっ、と灯る小さな火球。
「!!」
「にゃんぴん……お前、そんな芸当できたのかよ!」
「まぁにぇ」
「おま、ずっと一緒にいたのに隠してたのか〜!!」
首をわし掴みにするアーシス。
「うぐっ、死にゅ〜〜!!」
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《にゃんぴん》。
何者かはわからない。物心ついた頃から、ずっと一緒にいる存在だ。
——親友であり、兄弟であり、家族。
このモフモフを見たり話せるのは、どうやら俺だけ。だけど、そんなことは、どうでもよかった。
だって、こいつは——俺の大事な相棒だから。
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◇ ◇ ◇
一週間後。
風が吹き抜ける草原に、二つの影があった。 沈みかけた夕陽が、静かに世界を赤く染めていた。
「結局、この一週間、何もしてこんかったな。もう諦めたと思っとったが……まだやる気か」
爺が、呆れ混じりに言う。
「へっ、あの時の俺とは、もう違うぜ」
「……ふん。かかってこい」
アーシスは、剣を握りしめると、地を蹴った。
(速い……が、甘い! ワシには見えるぞ!)
剣を構える爺。
だが——その瞬間、アーシスは跳んだ。
空中、高く。
(大振り……隙だらけじゃ!)
カウンターを狙う爺に、アーシスは叫ぶ。
「今だ、にゃんぴん!」
「あいあいさ〜、ファイヤーボルチ!」
にゃんぴんが放った魔力が、アーシスの剣にまとわりつく。
「なにっ!?」
「火剣・ファイヤーボルチソード!!」
炎を纏った剣が振り下ろされる。
爺は咄嗟に受け流し、反撃に転じた——はずだった。
(影……!?)
突き刺した手応えは、アーシスの《影》。
本体は、すでに後ろへと回り込んでいた。
「もらった!」
振り下ろされる一撃。
ギリギリで避けるも、頬に浅い傷が走る。
(あの影は…)
にゃんぴんが生み出した魔術によるアーシスの影に、爺は気づき、そして小さく目を細めた。
(……そういうことか、ルーシェル…)
「やったああああぁぁぁぁ!!」
空に向かって吠えるアーシス。
「……ふん、約束は約束だ。好きにしろ」
静かに呟く爺の声は、どこか誇らしげだった。
こうして、アーシス=フュールーズは、世界へと踏み出した。
——誰も知らない、世界の“終焉の続き”を知るために。
(プロローグ・完)
いかがでしたか?
これから楽しい冒険物語を創っていきますのでよろしくお願いします!
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※この作品には一部AIアシスト(文章修正等)を利用していますが、内容は作者の手で創作しています。