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第4話

 アレシアと名乗ったその女性は、言葉少なに俺の隣に腰を下ろした。彼女の持つ書物が、かすかに革の匂いを漂わせる。沈黙は心地よくもあったが、同時に、何かを見透かされているような気がして落ち着かない。


「タカトさんは……この村に、どうやって?」

 言葉は穏やかだったが、問いは鋭かった。

 一瞬、何を答えるべきか迷った。ランジェという謎の人物から転移させられたこと、そして自分の存在そのものがこの世界にとって異質であること。そんなことを話せるわけがない。


「……気づいたら、林の中にいて。それより前のことは、よく覚えていないんです。」

 アレシアは俺の言葉に、すぐには反応しなかった。ただ、視線をわずかに落とし、考え込むように黙った。

 やばい、完全に怪しまれてるやつだこれ。もうちょっといい嘘なかったのか?俺。


「それは大変……なにか目的があって旅をしていたとか?」

 俺は一拍置いて、少しだけ顔を上げた。

「……探してる人がいる、ような気がするんです。たぶん、大事な誰かを。」

 我ながらアバウトすぎる。演技もわざとらしすぎる。

 自分でも信じきれない即興の作り話。でも、アレシアはそれ以上は何も聞かずに、ただ静かにうなずいた。

「この村に長く留まるのは、得策じゃありません。タカトさん、しばらく私と同行しませんか?その様子じゃ、今日の宿のあてもないんじゃないですか。」


「……いいんですか?」

「ええ、さすがに放っておけませんから。」

 あまりにもあっさりした言い方に、拍子抜けしそうになった。もしかして騙されて身ぐるみ剥がされるんじゃ?と思ったが、その目に偽りがあるようには見えない。

 アレシアは立ち上がり、俺にも目配せで促す。気づけばもう、日は傾きかけていた。夕暮れの気配が村を包む中、俺たちはゆっくりと歩き出す。

 村を抜ける道すがら、何人かの村人とすれ違った。皆、一様に俺たちのことを見ては、どこかズレた会話を始める。

 しかし、アレシアは随分とうまく話を受け流して、ほとんど足を止めることなく村の外へと向かっていく。老人の扱いがうますぎる。


「……ここの人たちって、ボケちゃってるのかな?」

 小声で問うと、アレシアは少しだけ笑った。

「どうでしょう?でもその方がタカトさんには都合が良かったんじゃないですか?」

 確かに、普通だったらもっと奇異の目に晒されていてもおかしくないはずだ。疑問は色々残るが、それはアレシアだって同じだ。それ以上、追及するのはやめた。

 村の外れにある石のアーチを越えると、草原が開けている。夕陽が、金色の光をあたりに落としている。風が吹き抜け、光が波打っている。


「このまま南に行けば、王都に着きます。そこなら、あなたのことも何かわかるかもしれません。それに……」

 アレシアは、ちらりと俺の服装を見た。

「その目立つ格好も、売ってしまえば当座の金にもなるでしょうし」

「な、…なるほど」


 俺の服、売られちゃうってこと? パーカー、けっこう気に入ってたんだけどな……

 たしかに、現代のパーカーにジーンズなんて、この世界では浮きまくってる。旅をするにも目立ちすぎる。ちょっと寂しい気もするが、仕方ない。

 俺たちは並んで、王都へ続く道を歩き出した。


 そのとき。

 ポケットの中で、スマホが震えた。通知だ。

 思わず取り出す。一通のメッセージが届いていた。


『時を守りしかんなぎが、物語に幕をおろす。 

 どうやらその人が伏線みたいですよ。お気をつけて。

 ――ランジェ』


 目を見張った。意味はわからない。けれど、ぞわりと悪寒が走った。

 え、アレシアさんが伏線ってこと?実は黒幕みたいな、そういう話?

 横を歩く彼女の横顔を、思わず見た。

 夕陽に照らされて、やわらかく揺れるその髪。その穏やかな表情の奥に、何があるのか――。

 まだ、俺には何もわからない。

 でも、何かが、確かに始まった気がした。

色々検討している間に1週空いてしまいました。旅らしい旅を始めていくのでよろしくお願いします。

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