第1話
「イチクラタカトさん、あなたには選択肢があります。このまま消えてなくなるか、もう一度だけ生き直すかー。」
俺はまだ状況を飲み込めていなかった。気が付けば広い部屋の真ん中で、机を挟んで女性と向き合って座っている。ドラマでよく見る、刑事と犯人のようにー。
「あの、すみませんけど、ここどこですか、俺、なんか記憶が曖昧みたいで」
夢でも見ているのだろうか。それにしてもリアルで、夢とは思えない。メガネをかけた金髪の女性は、制服のようなものを着ているが、今までに全く見たこともないデザインだ。整った顔立ちだが、どこか疲れが滲み出ているような気がした。
「わからないのも無理はありません、簡潔に話します。あなたは残念ながら亡くなって、いわゆる『審判』を受けているところです。」
ぼんやりと思い出してきた。120時間連続ゲーム実況配信に挑戦している最中、感じたことのないような頭痛に襲われて、それ以降のことは覚えていない。まさかそんなことで死んでしまったとは、呆気なさすぎて言葉もでない。
「ということは、あなたは神ってことですか?」
「まあ一応そういうことになりますかね。山ほどいますけどね。」
たくさんいるらしい。神ってそういうものだったのか。
「で、普通はこのままさようなら〜、なんですが」
「え、もしかして戻してもらえるんですか?」
「いやいや、それは基本無理です。ですが」
「ひとつやってもらいたいことがあるんですよね、でうまくできたら上にかけ合います」
「上って」
「あるんですよ、そういうのが。あなたの世界にもあるでしょ、上司と部下ってやつ。私そんなに偉くないんですよ。」
なんだか急に親しみが沸いてきた。思っていたような死後の世界とは違うらしい。よく見ればこの部屋も、年季が入っているような気がするし、なんとも言えない古い建物のニオイもした。
「ちなみにそれって、難しいことですか」
「ですね」
即答だ。希望が一瞬で打ち砕かれた。かといって、選べる選択肢はなさそうだ。
「あなたにやってもらいたいこと、それは、世界の終わりを回避することです。」
でた、めちゃくちゃよく聞くやつ。もはや親しみすら感じる。
「具体的に何をやればいいんですかね?」
「お、やる気になってくれましたか!」
女神は席を立つと、後ろの壁に貼ってある天文図のようなものに手を翳した。すると映像が流れ出し、いくつかの風景が流れていく。見つめていると吸い込まれそうな感覚に襲われる。やがて1つの風景に像が収まった。世界史の教科書でみたことのあるような、昔のヨーロッパの小さな村、という感じだ。
「あなたはこれから眠ってもらって、次に目が覚めたらここにいます」
「で、世界を終わりの運命から救ってもらう、ってことですかね」
「その通りです、話が早いですね」悪い顔をしている。
実際そんなマンガやアニメは山ほどみてきているが、いざ自分がやるとなったら聞きたいことだらけだ。
「ちなみに、言葉とかって通じるんですかね?」
「そこはご心配なく。流石にいきなり送り込んでも無理ゲーなのはわかっています。ちょっとポケットからスマホ出してもらえます?」
そう言われてはじめて意識したが、身につけている服は死ぬ前と全く同じで、ポケットには愛用のスマホの感触もあった。
(スマホって死後も持ってこられるんだ)
「あなたはこれが使いやすいと思うので、私の力で再現しておきました。このスマホで、翻訳とMAPは同じように使えるので、なんとか頑張ってください。」
「神ってなんでもできるんですね。」
「なんでもできたらお願いしないですよ。こういうのは得意分野なんです。
それと大事なことが一つ。ちょっと待ってくださいね」
女神がどこからともなく現れたディスプレイを軽く操作すると、タカトのスマホが振動した。
画面にはこうあった。「魂管理課のランジェです」
「これって」
「私のメッセージですよ」
神ともメッセができるとは、スマホはどこまで万能なんだ。
「名乗り遅れましたけど、私はランジェ。普段は管理している世界の死者の魂の選別を行う仕事をしています。」
「ランジェさん、俺がその、異世界で目覚めても連絡はできるってことでいいですか」
「半分はそうですね、でも、多分私から一方的に連絡することしかできないはずです」
ランジェは少し勿体ぶって、神妙な面持ちで告げた。
「私が連絡するのは、あなたが伏線に触れた時です。」
どういうことか。すぐには頭が追いつかなかった。
昨今、伏線回収が流行っていますが、先に伏線がわかっていたらどうなるのか、そんなアイデアで物語を書いてみようと思います。