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男女カプ好きの私、乙女ゲームをプレイしてみる。

作者: ハープ

 男女カプ好きの主人公が友達に乙女ゲームを借りてプレイするお話です。


 大学での授業が終わり、教授が教室から出ていく。まだ入学したばかりの私はなかなか慣れないことが多いけれど、とりあえず今日の授業はこのコマで最後だ。


(はやく家に帰って、漫画でも読みたいな……)と思いながら帰り支度を進める。ふと教室の中の、私と同じように帰り支度を進める人たちや、まだ残って談笑している人たち、用事があるのか足早に去っていく人たちを眺めていると……気になるものを見つけた。


 それは、今まさにゆっくりと教科書を鞄にしまおうとしている地味な見た目の女子学生……とはいえ彼女自身ではなく鞄そのもののほうだった。正確にいうならその鞄についている二つの缶バッジ。


 私の知らないキャラクターの絵が一人ずつ描かれている。一人目はピンク髪にショートカットの女の子。二人目は短い黒髪の男の子。絵柄的に同じ作品のキャラどうしだろう。


 私はその女子学生に近づき、声をかけた。

「ねえ、ちょっといい? その缶バッジ、かわいいね!」

 女子学生は一瞬驚いた様子だったが、すぐに嬉しそうな表情になり、「……ありがとう、このゲーム知ってるの?」と返してくる。どうやら缶バッジに描かれているのはゲームのキャラクターらしい。

「ごめん、そのゲームは知らないんだけど、今見て絵が綺麗だなって思ったのと、あとキャラクターどうしを隣に置いているってことは、もしかしたら男女カプ好きなのかなって思って……私も好きだから」となぜかやや緊張しながら言った私に、女子学生は目を輝かせた。

「そう、私も男女カプ好きなんだよ〜!」


 世の中には色んなオタクがいる。私も二次元オタクの一人だが、私の場合キャラクター単体で推すというよりも、キャラクターどうしの関係性……とりわけ恋愛的な関係や感情を持っているキャラクターどうしを推すことが多い。その中でも男女のカップリングが私は好きだ。


 その後同じく今日の授業を終えている女子学生としばらく話をしたところによると、彼女が鞄につけている缶バッジのキャラクターたちはなんと、乙女ゲームに出てくる登場人物らしい。女の子の方が乙女ゲームの主人公ヒロインで、男の子の方は攻略対象の一人なんだそうだ。

「え、でも、乙女ゲームってヒロインに自己投影して自分と攻略対象の恋愛っていう感じで楽しむんじゃないの?」疑問に思った私が聞くと、

「そういう人もたくさんいるけど、乙女ゲームってヒロインのキャラクターもばっちり個性がある場合が多いから、カップリングで推している人もわりといるよ〜。あ、今度このゲーム貸そうか? ゲーム機持ってる? それともハードごと貸す?」と布教された。幸いゲーム機は家に兄が使っていたものがあるのでソフトだけ貸してもらうことになり、その場は女子学生と連絡先を交換して解散することとなった。


 数日後、私は家で久しぶりに充電したゲーム機と借りたソフトに向き合っていた。このゲーム機は元々兄がアクション系のゲームをプレイするのに使っていたらしく、まさかそこに私が乙女ゲームのソフトを入れることになるなどと誰が想像しただろうか。

「よーし、やるぞ」と気合いを入れて、私は人生初の乙女ゲームを始めた。


 有名(らしい、女子学生がそう言っていた)な乙女ゲームブランドのロゴが出てきて、オープニングムービーが始まった。あの缶バッジの女の子と男性キャラクターたちの立ち絵や一枚絵スチルというらしいが画面を流れていく。オープニングを歌っている女性ボーカルの声は綺麗だったけれど、私は画面の情報量が多くてそれどころではない。なんだかんだでオープニングムービーが終わり、タイトル画面。いきなり男性の声(おそらく攻略対象の一人だと思われる)がタイトルを読み上げ、完全に気を抜いていた私は思わず「うわあっ」と言ってしまった。単純にびっくりしたのである。


 「はじめから」を選択し、物語を始める。最初にヒロインの名前を自由に決められるらしいが、私は自己投影したくないのでデフォルト(最初に表示されている名前)の名前のままスタートする。ちなみにデフォルトの名前でゲームを始めると、攻略対象などヒロイン以外のキャラクターがボイス付きで名前を呼んでくれるらしい。カップリング好きとしてはこちらのほうが嬉しいので色んなプレイヤーの層に合わせているのだなあと感心した。


 いよいよ物語が始まる。このゲームの世界観は現代的なもので、大学での物語らしい。ちょうど私と同世代なので少しくすっとする。内容を簡単に説明すると、ヒロインは普通の大学生だが、なぜか何者かに狙われていることが発覚し、助けてくれた攻略対象たちのうちの一人と恋愛することになるというものだ。少女漫画でよくありそうな設定である。私は少女漫画もよく読むので飲み込みやすい設定だった。


 どの攻略対象と恋愛するかは、時折出てくる選択肢をプレイヤーが選択することにより上下する好感度の最終的な数値で決まる。最終的に一番好感度が高くなった攻略対象のルートに分岐する仕組みだ。


 攻略対象は大学の同級生、先輩、ヒロインの幼馴染(近くにある別の大学に通っている)、大学の先生の四人だ。二つの大学がこんなに近くにあるなんてすごいなーと文章を読みながら思ったけど、そんなことはどうでもいい。私はとりあえずあの缶バッジの男の子を攻略したかったため、同級生のルートに入ろうと頑張ることになった。


 最初の選択肢で、いきなりバッドエンドになった。ヒロインが彼女を狙っている何者かに刺されて死んでしまった。私は驚いてしばらく固まってしまう。バッドエンドとはいえ、乙女ゲームでは人が死ぬなどシリアスな展開はないと思っていたのだ。再びはじめからプレイし、しばらく話を進めているとまた別の選択肢で選択を間違えたらしく攻略対象(同級生)が行方不明になってしまった。ここで私は気づいた。

 

「乙女ゲーム、意外と手強い……?」


 バッドエンドが多く、選択肢もどれを選ぶべきかが難しい。その後も頑張って攻略していたがいっこうにハッピーエンドに辿り着かない。しびれを切らして交換したばかりの女子学生の連絡先にメッセージを送ると、「攻略サイトを見るといいよ」と返信がきた。本当は自力でなんとかしたかったが仕方がない。悔しいがインターネットの力に頼るとしよう。


 こうして私は無事にハッピーエンドに辿り着いた。なかなか衝撃的なお話だった。


 ヒロインを狙っていた何者かは、実は攻略対象である同級生自身だったのだ。同級生はヒロインのことが好きで、正体を隠したままヒロインを狙う演技をしたりヒロインを助けたりと一人二役を演じることでヒロインを助けてくれた自分に惚れさせることが目的だった。それを知ったヒロインは戸惑うものの、最終的には同級生を受け入れハッピーエンド……というものだった。


 まさか攻略対象の中にヒロインを狙う犯人がいるとは思っていなかったし、基本的に結末が一つと決まっている漫画ではなかなかこういったキャラクターが主人公と結ばれることはないだろう。ルート分岐があるゲームならではのストーリーである。他の攻略対象のルートだと、この同級生は完全に悪役として描かれるはずである。そちらも見てみようと私はゲーム機のコントローラーを操作しながら、このゲームにハマっている自分に気づいた。乙女ゲームは、楽しい。



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