18
城の前には様々な魔獣や魔人の死体が溢れている。そこからじわじわと漏れる瘴気。
彼らが吸っていた瘴気がここにきて放出を始めている。
仮面を外し、コツコツと歩きながら本来の姿に戻った。
勇者から難を逃れた魔人達が私に気づき、ひれ伏している。
「早く避難しなさい。間もなくここは瘴気の渦に飲み込まれるわ」
「は、はいっ」
城内を進むにつれて血の匂いが強くなっている。そして謁見の間という場所で勇者達一行を見つけた。
「俺達はやったんだ! 倒せた!!」
「これで世界は平和になるわ!」
抱き合い、涙を流しながら喜んでいる勇者一行。
力のないファーを四人でようやく倒せたと……?
どこまでも人間は弱い。
私の存在にすら気づいていないもの。
「ようやく魔王を倒せたの? それはそれは、おめでとう!」
四人は一斉に私の方に振り向いて攻撃の構えを取っている。
「私を殺す? 前にも忠告したが? 私を殺すと全てのダンジョンが消滅すると」
「だが、禍々しい魔力を纏う者を許すわけにはいかない!!」
勇者がそう叫ぶと他の仲間も呼応するように臨戦態勢になる。何だか可笑しくなって笑いたくなった。
「アハハッ。可笑しい。楽しいの? あぁ、なんて馬鹿な人間達」
「馬鹿とはなんだ! 馬鹿ではない! 我らは世界の希望なんだ!」
魔法使いが話す。
「私達は何のために存在するのか? すぐに理解するでしょう。アハハッ」
私は転移し、ファーの身体の前に立った。
「!!?」
私から漏れ出る覇気や魔力に動けない様子の勇者達。
「この身体は貰っていくわ。貴方達に興味はないの。あぁ、そこの聖女。貴女は特に。これから絶望することになるわ。クスクス。それではね?」
ファーの身体を軽々と持ち上げた私はそのまま最難関ダンジョンの私の部屋へと戻った。
――コンコンコンコン!!
けたたましくなるノック音やバタバタと複数の走ってくる足音が聞こえてくる。
「ウォールウォール様!? 大丈夫でしょうか!?」
あぁ、失敗したわ。魔力を抑えずにダンジョンに戻ってしまったわ。
扉を開けて心配しているドランや他の魔族達の姿があった。
「あぁ、ドラン達。ごめんね。ちょっと出掛けていたから。しばらくこのままでの状態にしておくから気にしないでちょうだい」
「あっ……。ハイ!!! やはりウォール様はこの世で一番美しい!」
「それと、もうすぐ魔王城は瘴気に埋もれていくわ。勇者達から逃げ延びた怪我人達を初心者ダンジョンに連れて行ってちょうだい」
「畏まりました」
魔人達が顔を真っ赤にしながら私を賛美し始める。
……面倒だわ。
今はまだ邪魔されたくない。
この部屋に誰も近づかないように指示をして扉を閉めた。
随分とズダボロになったファーストの身体を治療し、ベッドに寝かせる私。
ここからが本番よ!
人間には復活の呪文というものがあるらしい。死後二十四時間以内なら復活出来る可能性があるのだとか。
種から生まれた魔獣や魔人は基本敵に死に関して興味は薄い。
それは私もそう。
人間同様に種から生まれた魔人や魔獣は復活出来るらしいことは知っている。
残念ながら私達とは構造が違うので復活の呪文は効果がない。
だが身体を治療し、瘴気に浸しておけば生き返る。
そのままにしていても彼はムクリと起き上がるのだ。
ファーと戻ると約束した以上はね。
やることは一つしかない。
ファーから譲渡された瘴気や魔力などの力を元に戻すこと。
「ファー。そろそろ起きる時間よ」
眠っているファーストに口付けをし、瘴気を流し込んでいく。
ピクリと反応した身体はそのまま私を抱きしめ、強く瘴気を吸い取られる感覚になる。
そこからまた数日は彼の力を戻すのに費やした。
「ファー。もう元に戻ったんじゃない?」
「ああ、助かった。ウォールしか頼めない事だからな」
「そうそう、人間たちが騒いでいるわ。魔王が倒されたと喜んでいるみたい。馬鹿よね」
「もう少ししたら気づくんじゃないか? それにしてもここは心地がいいな」
「そうでしょう? 私が時間を掛けて作った部屋なのよ? ここは瘴気が濃いから当分ここにいるといいわ」
「そうだな。種の大分部は勇者達に殺されたからな。アイツらの面倒をウォールの部下が見てくれているんだろう? 当分はここでゆっくりしても問題はないな」
「ああ、それと。貴方の宰相が泣いていたわ? 半身を斬られていたから初心者ダンジョンの方で保護している。元気になったら会いに行ってあげないとね?」
逃げられる者は逃がし、瀕死の者はカーくん達が連れ戻ってきた。
「口うるさいじじいは生きていたか」
「ふふっ。瀕死だったわ。変異種だったから生き残れたみたいなのよね」
「……そうか」
ファーは何かを考えている様子。
「まぁ、怪我人は少し休みなさいよ?」
「ウォールはどこに行くんだ?」
「ん? ダンジョンを追加しようと思っていたのよね」
「何故だ?」
「だって魔王城にファーが住んでいないんだから瘴気で溢れかえるでしょう?」
「あぁ、あそこか。まだ大丈夫だろう? お前も動きすぎだ。瘴気疲れを起こしているんだから少し休め」
「……分かったわ」
こうして二人で何日も一緒にいるなんて何百年ぶりかしら?
まだあの沼があったころ。私達はまだ小さな白と黒の小鳥だったわね。何にも出来なかった。
今じゃ立派な魔王ですものね。それに力をお互い交換しているせいかお互いの色が混ざりあっている。
白と黒が半々になっている。
ファーの力が私の中で変化し、ファーの中に戻ったからお互いの能力が均一になったような感じかしら?
どこまで出来るのかは分からないけれど、私の弱かった力はファーの影響で地上を歩いても大丈夫になったと思う。
「ねぇ、変異種って今作ろうと思えば作れるのかしら?」
「……どうだろうな? 俺もお前も半分ずつになったからな。今度試せばいい」
「そうね。私達数百年間走り続けてきたから少し休まない?」
「あぁ。少し寝たらまた動き始めるか」
そうして私達にとっては軽い眠りに入った。




