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7 夜の学校にて

「つうちゃん」


優しい声に反して、肩を揺さぶる力は強い。

椿は一瞬にして目を覚ました。


「ごめん、寝とった・・・」


何時だろうと肩をさすりながら時計を確認して驚いた。

夜の七時!


「晩御飯の手伝いできんかった・・・。ばあちゃん、ごめんな」

「ええんや。今日はカレーやで!」


梅の声を聞きながら、椿は昨晩の聡子との電話を思い返した。

先日遊びに来てくれたときに聞いた『月代家の巻物と言い伝え』について家族に話を聞いてもらう約束をしていたのだが、結果は聡子から聞いた以上の情報は入ってこなかった。

『巻物は梅おばあちゃんが持っているんじゃない?』

聡子が適当に言ったこの言葉がどうにも引っかかった椿は、電話を終えた後夜通し物置棚を漁っていたのだ。

しかしこれまた見つからず、ほぼ眠っていない椿は帰宅するなり睡魔に負けてしまったのだ。


言い伝えの半月が桔梗で、覚醒する者が梅だったとして、その後は何もないのだろうか?

椿は自分は嫌に勘が働くことがあることを自覚していて、その不安を払拭するためにどうしても言い伝えに「続き」がないことをこの目で確かめたかったのだ。


二階建てだが、小さな家だ。

『また隙を見て捜索してみよう』

椿はそっと決意した。


「せや!」と梅はカレーをよそいながら思い出したように問いかけた。

「きい君がまだ帰ってないんやけど、つうちゃん何か知っとる?康太君の家やろか?」


梅の言葉に椿は仰天した。

「え、こんな時間まで?」


椿の声に梅はカレーをよそう手を止めた。

「なんも聞いてないん?委員会やろか・・・」


委員会がある日と言えど、いつもはとっくに帰宅している時間だ。


椿は急いで良太に電話をかけた。

桔梗の友人、康太は良太の弟だ。兄弟揃って友人関係にある。


「あ、良太?そこに康太いるか?」

「ああ、いるぞ」

「きいがまだ帰ってないんだ。今日って委員会があったのか聞いてもらえるか?」

「え!?おい、康太!・・・」


そこから、康太に確認しているのか声が遠くなったと思ったら、耳につんざくような良太の声が聞こえた。

「もしもし!?康太、今日は委員会なんてないって言ってるぞ」

「え!」

「桔梗から用事があるから先に帰っていいって言われたって・・・おい、大丈夫か?」

「・・・」


椿は確信した。

桔梗の身に何かよくないことが降りかかっていると・・・。


階段から落ちた日の朝のような、嫌な予感がした。


梅は椿の顔色を見て状況を悟ったようだ。


「つうちゃん、カレーはきいくんが帰ってから食べよな」

「うん・・・」


梅と椿は、家を飛び出して中学校に乗り込んだ。


夜遅い時間ということもあって、教室は暗闇に包まれていた。


ロッカーのなかまで調べてる梅に「流石に入らんやろ」と突っ込んだ。


「きい、どこにおるんや・・・」


途方に暮れながら、教室から出たら「椿!」と呼びかけられた。

廊下の向こうから誰かが走ってくる。


「良太!来てくれたのか・・・」

「いたか?」


こういうとき、過保護じゃないかのか?と言わずに駆けつけてくれるのが良太の良いところだ。


「教室にはおらんかった」


答えた梅の方を見た良太は何故か驚いたような顔をしている。


「まだその状態で・・・」


良太が何か呟いた気がしたが、椿は気に留める余裕がなかった。

「最初に図書室も見に行ったんだ。だけど鍵がかかっていて・・・」と混乱する頭で状況を伝えた。


「職員室に行こう」


そうか・・・。

パニック状態の頭だと単純な思考にたどり着けない。

良太は放心している椿の手を取った。

「まだ残っている先生もいるだろう」


幸い職員室にはまだ明かりがついていた。

夜遅い時間に外部の人間が入ってきたこともあって、残っていた先生たちは何事かと怪訝な顔を見せた。

それなのに、暫し唖然としていたのは、梅のがたいを目の当たりにしたからだろう。


「な、なんですか?あなた方は・・・」

「僕は月城桔梗の兄です」

「あ、月城君の・・・」


事情を説明したら、女性教師は安堵の表情を見せた。

一瞬顔を赤らめたのは椿の見てくれのせいだと分かっていた良太だったが、教えてやるつもりはない。


「桔梗がまだ帰らないので心配で来たんです」

「え、まだ帰ってないんですか?」

「はい。連絡もつかなくて、図書室の鍵を貸してくれませんか?」

「図書室ですか?ああ、桔梗君図書委員だから・・・。でも、先週から改修工事をしているので図書室には入室できないようになってるんです」

「え、そうなんですか・・・」


「誰か、山田桔梗君を見た方いらっしゃいますか?」

気落ちする椿を見かねて、女性教師は他の先生にも尋ねてくれた。


すると、一人の先生がこう言った。

「そういえば担任の吉川先生は?」

「あら、いつもこの時間はいらっしゃるのに」


「吉川?」

梅がその名前を呟いて何やら考え込む素振りを見せた。


他の先生がその吉川という担任に電話をかけてくれたが、出ないと言う。

ここに居てもこれ以上の手がかりはなさそうだ。

礼を言って、学校を後にしていると校庭に一人見知った男が立っていた。


「ヤマ!?」


桔梗と良太はこの男の存在をすっかり忘れていた。

そしてすぐに犯人はこいつだと思い込んだ二人は掴みかかる勢いで問いただした。


「桔梗はどこや!?」

「どこに隠した!?」


ヤマは少し驚いた後、状況を理解して、この兄たちに怒りが沸々と湧いてきた!


「誰が隠すか!隠したいけど・・・そんなことするか!というか、桔梗、家に帰ってないんですか?」

「ああ・・・」

「連絡は?」

「つかない!お前は何でここに?」

「え?今日はたまたま、こっちに来る用事があったんですよ。ついでに桔梗に会えたらなって・・・」


『やっぱり怪しい・・・』


三人に睨まれているのに気づいたヤマは頭をぶんぶん横に振った。


「違う!聞いてください!」

「何だよ」

「あの担任は怪しいぞ」

「担任?」

「さっきの吉川先生のことだ」

良太がその名前を出すと、梅は苦々しい表情で「くそ!」とこぶしを振り下ろした。

「康太から吉川という担任に怪しいところがあると、耳に入れていたのに・・・!」

「え、そうだったんですか?」


良太は少し驚いていたが、椿は一人ついていけずにいた。

桔梗の傍にいる時間が長い康太にだからこそ気づけることがあるとは言え、梅がお願いをしていたなんて。


「もうすく進級して担任も変わるだろうと・・・甘かったわ」


椿が口をはさむ間もなく、梅はヤマに向き直った。


「詳しく教えてや」

「・・・さっき、桔梗はあの担任の車に乗り込んだんだ。てっきり、桔梗が怪我か貧血を起こして家まで送り届けるもんかと思ってたけど・・・。家に帰ってないって言うんだったら、怪しいだろ?」

「それ何時ごろ?」

「夕方の五時前」

「お前は二時間ここにいたのか?」

「桔梗を待ってるときに携帯を落としたんだ。それで戻って来たらお兄様方が血相変えて来られたところに、鉢合わせしたってわけ」


つまりはヤマは本当にたまたまここに居て、桔梗を最後に目撃した一人という訳だった。


「・・・二時間前ならとっくに家に着いているはずだな」

「どういうことだ?」


皆が怪訝な顔つきになった。

すると、梅が口を開いた。


「行くで」

「どこに?」

「桔梗を取り戻しに」

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