序章
その巻物は随分と古びていた。
コロコロと転がって開かれたなかには、掠れた文字でこう記されている。
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我が一族に、半月を持つ者が生まれたならば、
その秀麗な面立ちに、人々は惹きつけられ、やがて波乱を呼び寄せるだろう。
半月を持つ者が傷つけられ、一族の者の血が騒ぐとき、
その怒りは、隆々と脈打つだろう・・・
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巻物は良質な和紙が使われているようで、その独特な匂いに幼い男の子は興味を引かれたようだ。
男の子は、当然まだ文字を読むことができない。
「これ、なあに?」
生まれたばかりの赤子をあやしていた父親は、男の子の声に振り向いてやっと状況を理解した。
「触ったらあかんよ!」
慌てて巻物を取り上げたが、男の子はそれが面白くなかった。
「何で取るん!」
男の子は弟ばかりに世話を焼く父親に不満もあって声を上げた。
父親は今にも泣きだしそうな男の子を宥めるように「言い伝えが書かれてるだけや」と教えてやる。
「いい、つたえ?」
「うん。ずっと昔の・・・。それより椿、何して遊ぼうか?」
弟が出来てから構ってもらえず、不貞腐れることが多かった男の子の顔にパッと花が咲いた。
父親は申し訳なさそうに小さな頭を撫でてやる。
男の子は「ボール遊びがいい!」と先に外に駆け出した。
父親は抱えていた赤子を妻に引き渡す。
物置の整理をしている最中に出てきたものだ。
父親は震える手で巻物を拾い上げると、たんすの奥底へと押しやった・・・。