総合訓練 ~移動~
夕刻を過ぎ闇に支配された演習場を走る一台のSUV。中も外も不必要な装備は一切搭載せず、OD色に塗装されたその車は無骨の一言に限る。
そんな無骨な軍用車にフル装備のジャック、ランス、ミツバの三人は乗せられていた。
本日は補強訓練の総決算、総合訓練だ。
訓練内容は夜間、自由降下により降着したという想定で、スタート位置から広大な演習場を徒歩で移動し、ゲリラの拠点を偵察。場合によっては破壊工作。そして、ピックアップポイントまで移動しヘリで作戦エリアを離脱。という実際の任務とほぼ同じ流れで行われる。
車のヘッドライト以外、外に明かりはなく自然と皆閉口し車内は異様な静けさに包まれている。
そして、不意にドライバーが車を止める。
「じゃ、お先です。」
そう言ってミツバが下車をする。
自由降下による降着を想定しているため、三人は五分おきに下車をしそこから集結地点に向かうことになっている。
車のドアが閉められるとミツバの姿は殆ど見えなくなり、ドライバーはそんなことを気にするでもなく再び車を走らせた。
そして、五分ほど経ってまた停車する。
「それじゃあ、また後で」
今度はジャックが車を下り、発車する。
それからまた五分。
「ありがとう。気をつけて」
最後にランスが真っ暗な演習場に下り立ち、走り去る車を見送った。
「さて・・・」
ランスはGPS端末で向かうべき方向を確かめ、行動を開始する。
「概ねこの辺りですね・・・」
下車からこまめに端末を確認しながら歩くこと約三十分。ミツバは集結地点に到着した。
そして、テープによって遮光が施されたライトを周囲に向けながら、一定の間隔で点滅させ自分が到着したことを告げる。
「一番乗りか・・・」
信号に対する返答がないことを確認したミツバはそう呟くと、草むらに身を隠すように座り込んだ。
そして、装備に取り付けられたポーチからシリアルバーを引っ張り出し、一口かじる。
程なくして足音が聞こえ、真っ暗な空間に点のような光の信号が見えた。
ミツバはライトで信号に答える。
「ミツバか?」
信号の方向からジャックの声が聞こえ、暗視装置で姿を確認する。ジャックの横にはランスもいた。
「全員揃いましたね。」
「前進開始まで約十分。」
合流が完了し、ランスが腕時計で時間を確認する。
「だいぶゆっくり休める。」
「だな。」
どことなく嬉しさを滲ませながらジャックが言い、ランスもそれに同意した。
「前進開始。」
十分後。ランスの号令で三人は敵の拠点に向け移動を開始した。