保安官事務所
ミツバとランスが町に足を踏み入れた頃、ジャックは町の中心部にある保安官事務所を訪れていた。
その事務所は複数の窓口を兼ね備え、そこそこの広さではあるが、詰めている保安官の数はまばらだ。
「よお、ジャックじゃないか。」
窓口の奥にいたカールがジャックを見つけるなり気さくに声を掛ける。
「どうした困りごとか?」
カールは笑顔のまま、表情を崩さないジャックに歩み寄る。
「しばらくこの町に厄介になろうと思ってな。保安官募集の広告を見た。まだ空きはあるか?」
「おいおい、しばらくって保安官は短期バイトじゃないぞ?」
淡々と発言するジャックにカールは吹き出しながら肩をすくめた。
「可能なら長く続けたい。」
「まあ、良い。丁度人手不足だったん。色々手続きがある。奥に来てくれ。」
そう言ってカールが踵を返し、ジャックが後に続く。
しかし、何者かがジャックの肩を掴み引き止める。
「ん?・・・なぜここにいる?」
振り返ったジャックが驚いた様子で言う。
そこにいたのはランスだった。
「悪いなジャック。除隊は取り消しだ。」
肩を掴んだままランスが口を開く。
「いや、俺はもう辞めたんだ。」
「そうも行きません。除隊後であっても復帰を命ぜられた場合、これに従わなければならない。と軍法にありますよ?」
ミツバが拒絶するジャックに淡々と説明する。
「だからと言ってなぜ辞めた人間を呼び戻すんだ。軍はそんなに人手不足なのか?」
それに対し抵抗をするジャック。
「俺達にしか出来ない任務だ。」
「だからわざわざチームメイトのお前らが来たってわけか・・・」
ランスの一言にジャックはため息をついた。
「そういうことだ。ジャック、チームに戻ってくれ。」
ランスはジャックを真っ直ぐ見つめ訴える。
「待て待て。せっかくの入局希望者を目の前で掻っ攫う気か?」
そんな中、人手不足に悩むカールが二人の間に割り込んできた。
「ああ、失礼。それに関して国から補助が出るかも知れません。」
「へ?」
割り込みに対し、ミツバがさらなる横槍を入れたことによって、カールは鳩が豆鉄砲を食らったような顔をした。
「詳しく説明させてください。」
そう言いながらカールを二人から引き剥がす。
「・・・ジャック!」
離れていくカールを見送ったランスは、ジャックに向き直ると名前を呼んだ。
「いや、無理だ。」
即答するジャック。
「ジャック・・・」
「臆病者とでも何とでも言ってくれ。なんの罪もない人達が目の前で無惨に死んでいく事に俺はもう耐えられない。」
そう話すジャックの目は悲しみに満ちていた。
「今回はそういう任務じゃない。」
「でも、ダメだ。ゲートを出た時点で俺は軍との関わり断った。ミツバが言ってた軍法も大した強制力もないんだろ?」
弁明をするも、ジャックの意志は堅い。
「わかった。俺達は隣町にいる。三日後、引き上げる前にまたこの町に来る。もし、気が変わったんなら朝九時に町の入口にいろ。・・・ミツバ、行くぞ。」
「はい。」
ジャックの主張に一定の理解を示したランスは、今後の事を一方的に話すと答えも聞かぬまま、ミツバを連れて事務所を出た。
「・・・どいつもこいつも勝手なことばかり言いやがって」
二人の背中を見送ったジャックが吐き捨てる。
「あー、ジャック。何をするかは知らねぇけど、保安官をしながらでもその任務とやらへの参加はOKだから!」
国からの補助が余程手厚いのか、カールは上機嫌で親指を立てた。
それに対し、ジャックは何も言わず冷めた視線を送った。