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除隊理由

「除隊した本当の理由ってなんだ?」

 食事が終わり一足先にミツバが退席したテーブルで、食後のコーヒーを嗜むランスは向かい側に座るジャックに聞いた。

「あ?」

 余所見をしていたジャックは不意をつかれたように短く返し、視線を前に向ける。

「前に聞いたときの理由が、将来が不安とかあまりにフワッとしすぎてたんでな。・・・いや、別に嫌なら言わなくてもいい。」

 ランスは質問に対する詳細な理由を話すと、少し気まずそうに付け加えた。

「中東方面での任務だ。」

 短くそれでいてはっきりとジャックが言う。

「あの事か・・・」


 五年前。フェンリルは中東の某国において任務に就いていた。

 その日、ジャックは進軍する味方部隊を援護するため、廃墟と化した街の建物の屋上に身を隠し周囲を警戒していた。

 味方車輌のエンジン音はだいぶ近くまで来ているが、今のところ不審なものは見受けられない。

 目立たないようジャックはゆっくり首の向きを変えると、視界の端に薄茶色に塗装された味方の戦車と随伴する歩兵部隊が入って来る。

「来たな。・・・こちらファング、味方部隊を視界で確認。」

「了解、警戒を厳にせよ。」

 無線での報告に対しお決まりの文句が返ってくる。・・・が、実際最も危険な状態であることは確かだ。

 ジャックは構えていたライフルのグリップを握り直し、気を引き締める。

 その時だった。視界の中で何かが動く。

「ん?」

 気のせいで片づいてしまいそうな極僅かな変化ではあったが、ジャックはライフルに取りつけられたスコープを覗き、何かが動いた斜め向かいの崩れた建物の窓に照準を合わせた。

「・・・居た。」

 十字の切られたレンズ越しに窓から飛び出たロケット砲の弾頭部が見える。

 射手を狙うため小移動をするジャックだが、現在位置からでは敵を見ることが出来ない。

「こいつを使うか・・・」

 これ以上の移動は時間的に不可能と判断したジャックは、銃身下部に装備されたランチャーにグレネード弾を装填した。そして、ロケット砲の据えられた窓に照準を合わせグレネードランチャーを発射する。

 爆発音とともに窓から土煙が上がる。

 再びスコープを覗くとロケット砲は姿を消していた。

「こちらファング、ロケット砲を確認。射手が見えなかったためグレネードを発射した。ポイントBに移動する。」

 無線機で報告をしたジャックは装備をまとめ立ちあがると、そのままダッシュして隣のビルに飛び移り階段でワンフロア下の階に行き、通りを見下ろせる窓に張り付く。

「・・・スナイパーの顔を見てやるか。」

 今の位置からなら先程、グレネード弾を撃ち込んだ窓がよく見える。

 ジャックはスコープでその窓を覗いた。

「・・・っ!」


「武装した子供が少なくとも三人転がってた・・・。しかも、一人はまだ息があって苦しそうに動いてたんだ。」

「そんなことが・・・」

 子供を撃ったことは聞いていたが、その先の事は初耳だったためランスは絶句した。

「・・・なあジャック、あのときと同じことを言うが、あれは正当な行為でお前は悪くない。」

「わかってる。俺は殺しに関しては仕事として割り切っていたし、誰であろうと必要なら容赦なく殺す。そんな気概でやってきてた。だが、実際にあんなひでぇ状況を目の前にしてマジでビビっちまった・・・。だから辞めたんだ。」

 ジャックの声からどんどんトーンが抜けていき、最後には消え入りそうなものになっていた。

「そうか・・・ありがとな。話してくれて。」

「ああ、こっちも話せて幾分か楽になった。」

 そう言いながらジャックは照れくさそうに明後日の方向を向く。

「じゃあ、そのままフェンリルに戻ってくれ。」

 そして、ここだと言わんばかりにランスは申し出る。

「それはまた別の話だ。」

 しかし、その申し出はあっさり却下された。

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