ミーティング
とある軍事施設の会議室。
教室ほどの広さの薄暗い部屋には、迷彩服に身を包んだ四名の人物が待機していた。
「少し早いけど始めましょう。」
そのうちの一人、グレンと刺繍されたネームと中佐の階級章を着けた長身の女性は腕時計を見てそう言う。
その瞬間、室内の空気がパリッとしたものに変わる。
そして、グレン中佐はノートパソコンの前に座っている細身の士官に目配せをした。
士官がパソコンを操作すると、前方のスクリーンに様々な情報が書き込まれた衛星写真が映し出される。
「あれ?これって・・・」
「前に行った所だよな?」
残り二人の男女。中肉中背でウェーブがかったブロンドヘアのランス・ミラー軍曹と、小柄な体格にショートヘアと銀縁眼鏡がトレードマークのミツバ・アマノ軍曹が、表示された衛星写真を見てざわつく。
「静粛に。では、任務の概要を説明します。」
グレン中佐は場を静め、そう宣言した。
この場にいる面々は陸軍特殊部隊“フェンリル”の隊員で、正に今実行役のランスとミツバに命令が下令されるところであった。
「場所はTランドのクロチャ奥地にあるマーゴン遺跡。・・・さっき貴方達が話していた通り過去に作戦を行った場所よ。」
グレン中佐の言う通りランスとミツバは過去に、この遺跡でゲリラに捕まった人質の救出を行っている。
「前回の救出任務の後、Tランド国軍がゲリラの殲滅を行う予定だったけど、内戦の勃発により作戦が見送られ、その間にゲリラが急速に勢力を拡大してしまったの。」
説明に合わせスクリーンの衛星写真が最新の物に切り替わる。
緑に呑み込まれそうだった遺跡群は、除草や伐採がなされ建造物の形が見て取れるようになり、新たに建造されたであろう小さな建屋が復数箇所に建っていた。そして、整地された広場には中型ヘリコプターまで駐機している。
「未確認だけど生物化学兵器が持ち込まれたという情報も入っているわ。」
グレン中佐が情報を補足する。
「少し見ない間に立派になったもんだ。」
ランスはそう言って薄ら笑いを浮かべた。
「これはちょっと立派すぎますね・・・」
メガネに衛星写真を反射させながら、ミツバはまじまじとスクリーンを見つめる。
「貴方達にはこの地で何が起こっているか情報収集をしてもらいます。」
「これは国軍の仕事では?」
言い切るグレン中佐に、ランスは素朴な疑問をぶつけた。
「内戦の後始末で手が回らないと、外交ルートを通じて派遣要請が掛かったの。それに土地勘がある人達に行かせた方が堅実じゃないかしら?」
「前回の参加メンバーの一名が数か月前に除隊したばかりですが・・・」
淡々と疑問に答えるグレン中佐に、さらにミツバが歯切れが悪そうに意見する。
「除隊したランダル軍曹を呼び戻すのも今回の任務の内よ。」
「それはもう人事の仕事ですよ?」
話が拗れてきたことにランスは煩わしさを滲ませる。
「連絡をしたけど繋がらないのよ。チームメイトである貴方達ならなにか知ってるんじゃないかしら?」
知ってる?といった表情でランスはミツバを見るが、向こうもそんな感じの表情をしている。
「知らない?」
「知りません。」
ピッと指を差して聞くランスに、ミツバは即答した。
「連絡、取れません。」
そして、グレン中佐に申告する。
「そう・・・諜報部に連絡を取ってちょうだい。一週間以内にジャック・ランダル軍曹を見つけるように。」
一瞬だけ落胆したグレン中佐だったがすぐに復帰すると、士官に指示を出し、早期発見を促した。