Extra14 君に捧ぐロイヤルブルー -1-
いつもは、起こされるまで寝台を抜け出すことはない。カーテンを引いて日差しを浴びてもぎりぎりまで抵抗してふとんの中に潜り込んでしまう。
昔から朝は頭がぼんやりして身体が重いのだ。眠気覚ましにお茶を飲んでもさほど変わりはないので、やはり体質なのだろう。
それなのに――よりによって今日は、やけに早く目が醒めてしまった。
夜の終わりの気配が漂う部屋をつま先立ちで歩き、エリーシャは窓辺に立った。開け放った窓から静謐な空気と共に、早朝から仕事を始める人々が立てる気だるげな物音が入り込んでくる。
ぼんやり明け方の空を眺めていると、じわりと熟した果実のようなピンクが薄紫の空の端からじわりじわりと滲んで広がって来るのが見えた。長い一日になるとはわかっているのに、胸がそわそわして落ち着かないでいる。
こんこんこん、とノックの音に振り返り「はい」と返事をした。
「おはようございます、エリーシャ様。今日は……もう起きていらっしゃったのですね」
ミレイアたちメイドが恭しく一礼して室内に入って来た。長い一日が始まる――誰もがわかっていたことが、ずしりと胸にのしかかって来る。こまごまとした説明に耳を傾け、入浴の準備を始めたメイドたちのそばに、エリーシャは歩み寄ろうとした。
「あ……」
最後に振り返って空を見上げれば、既にやわらかく燃えるような朝焼けは夢のごとく消え去り、鮮やかな青が広がっていた。
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慌ただしく準備が成された。湯浴み、そして丹念な化粧を施してから、今日のために用意された特別な衣装に身を包む。
ヴィーダ帝国において、皇室の「花嫁」が着用するドレスの色は例外なく純白と決まっている。仕立屋に発注して採寸、デザイン、フィッティングに至るまで時間をかけて丁寧に仕上げられたウェディングドレスだ。
過度な露出は避け、清楚で可憐な美しさを強調するようなものに。
何よりも大事なのは花嫁となる女性の魅力を最大限に引き立てること、そんなオーダーに選出された仕立屋は十分すぎるほどに応えた。
「エリーシャ様、素敵です……」
ほう、とメイドのシアが息を呑んで両手を顔の前で組み合わせて祈るようなポーズをとった。日ごろ表情を変えないクールな印象のあるヴィノも涙ぐんでいる。
首筋から両腕を覆う薔薇の模様を編んだ繊細なレース生地と、光を浴びてきらきらと光るシャンタンの前身頃を縫い合わせる。
背面は白の細いリボンで華奢な背中をきゅっと締め上げてその細さをいっそう強調するデザイン。何よりもバックの大きなフリルが波打つような長い裳裾が見事で、後ろ姿まで美しいドレスだった。
専属の髪結師がふわふわのエリーシャの髪質を活かして柔らかな印象のアップスタイルに仕上げ、髪飾りには白い生花のコサージュをあしらいヴェール、そしてティアラと共にまとめ上げる。
歩くだけでも繊細に飾り立てられた自分の外見を崩しそうで、ぷるぷると足が震えてしまう。もちろん食事をする、なんて気持ちにもならず少量の水で乾いた喉を潤すにとどめた。
「エリーシャ様。お時間です」
女官長が、エリーシャを前にしてかすかに目を瞠り――そのまま、サフィルス宮殿の外へと導いた。使用人一同から送り出され、馬車で式が行われる大聖堂へと向かう。
顔なじみの御者も、式に合わせて着飾っているので一瞬誰だかわからなかった。帽子を取って挨拶されて初めて、彼のへにゃりとした笑顔が見られたのでつられてエリーシャも微笑んだ。




