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Extra12 姉さまガチ勢、同担拒否です

 ボクは姉さま……エリーシャ・フォレノワールのことが大好きだ。


 ボクが弟じゃなければすぐにでも結婚を申し込んでいたに違いない。それくらい大大大大大好きなんだ。姉さまにはきっと可愛らしい純白のウエディングドレスが似合うよね。レースもフリルもたっぷりで。ボクも同じくらいフリルと花飾りがいっぱいの可愛いドレスを着るんだ。ああ楽しみだなあ、待ちきれないよ。


「おい」


 仕方がないからうちの家族や使用人たちは式に呼んであげることにする。

 帝国式の教会での挙式はやめて、うちの屋敷の庭でささやかにパーティーを開くだけというのが一番いいかな。姉さまは恥ずかしがり屋だから、あまり出席者は多くない方がいい。

 だけど美味しいお茶とお菓子がたくさんあるといいよね。でもそうなると使用人たちにはお休みをあげられないや。どうしたものかな。


「おいって言ってるだろ、女装男サエラ!」

「……うるさいなあ、ボクの妄想の邪魔をしないでくれる? レミル公子(クソガキ)――ああ、いまは皇子なんだっけ、いちおう?」


 あっかんべえとすると、むきーっと顔を真っ赤にして怒り始めた。本当に子供っぽくて嫌になっちゃうよ。

 サフィルス宮殿に招かれたのはてっきり姉さまがボクを恋しく思ったせいだと思ったのに……このガキの相手をさせようだなんて。ひどいよ姉さま。


 そうは言っても姉さまには嫌われたくない。だから仕方なく相手をしてやっているんだからね。そこんところよぉく理解してもらわないと。

 あーあ、姉さまはあのいけ好かない虚弱モヤシと競馬観戦に出向いたらしいからね、残されたこいつの面倒見てあげないと何するかわかんないってことだろう。


 ボクは社交シーズンはフォレノワール州でお留守番していたから、この時期に帝都にいるのはめずらしい。せっかく都会にいるのだから流行りの服やアクセサリー、にお帽子。たっくさん見て回って、お買い物にだって行きたいのに……ぐぬ。


 広い応接の間でティーカップを傾けながら、ぎろとレミルを睨んだ。

 それにしてもこの元公子、ほんとに無作法者で嫌になっちゃうなあ。お菓子の食べ方も汚いし。ほら屑が皿からクロス、挙句床にまでボロボロと零れ落ちている。


 大体、同年代というだけの理由で友達なれるとでも思ったのが間違いだよ。どうせ、考えたのも仕向けたのもユーリスだろうけど。ボクが姉さまべったりなのが気に食わないんだろう、馬鹿らしいことこの上なしだ。


「むぐ、あのさあ……」

「くちゃくちゃ食べながら喋らないで。下品でしょ、あんたに誰も教えてくれなかったの?」


 ごっくん、と口いっぱいに頬張っていたプティフールを飲み込んでレミルは叫んだ。


「おまえごときの前で礼儀作法とかどうでもいいだろ。なにしろぼくは皇子なんだから!」

「ずうずうしいやつだなあ……皇家の養子になったからって自分から皇子名乗るの恥ずかしくないの? あんたの父親は僻地の城(カンゴク)で暮らしてるっていうのにさ」

「いないよ。そんなとこには……父さまもライアン兄さまも」


 ぼそりとレミルがつぶやいて、息を吐いた。なに、なんかむかつく態度だな。ふんぞり返ったままレミルはボクの可愛らしいヘッドドレスから、テーブル越しに見えるひらひらふわふわの服を一瞥し、ふんと鼻を鳴らした。


「大体、なんでおまえ女の恰好なんかしてるんだよ。しかも、全身真っ黒って……葬式じゃないんだからさあ」

「似合うからいいでしょ? 姉さまだってずうっとボクのこと妹だって思ってるぐらいだし」

「はあ? ……なんで?」

「ふっふーん、同性イモウトの方がボクにとって都合が良いもん。べたべたくっついても嫌がられないし。ちゃんと兄さまたちとは口裏は合わせてるから大丈夫! ぎりぎりまで妹として生きていくんだ……ふふふふ」


 なんだこいつ、という目でレミルがボクを見ていたけれど気にしない。

 あとどうして全身真っ黒なのか、というと……気分だ。そういう気分だったから、というだけだ。ボクは凡人が着ると地味にしかならない服装であってもとんでもなく可愛くなってしまう。存在そのものが罪なのかもしれないよねっ。


「姉さま姉さまうるさいよな、おまえ。どうせ羊女にはユーリス殿下がいるじゃないか」

「うるさいなあ。あんなひ弱なやつ、ボクはまだ認めてないんだからね。姉さまの前ではお行儀良くしてあげてるだけだから」


 空気のように傍に控えていたメイドたちが空になったティーカップに茶を注いだ。

 ありがとう、なんて言ってにっこり微笑めば「きゃあ」と嬉しそうな歓声を上げそうになるのを必死で圧しとどめているらしく「んっ、勿体なきお言葉です……」と返事があった。

 ふふーん、やっぱりボクの可愛さはサフィルス宮殿でも通用しちゃうんだよね。

 どうだ、とばかりにレミルを見るとぼうっとした顔でボクを見ていた。何。じろじろ見ないでよキモい。


「……おまえが女だったらなあ」

「はあ? 何言ってんの……ま、まさか」


 がた、と椅子を引いてボクはのけぞった。最低最悪だ。こいつ、やっぱり視界に入れるべきじゃないやつじゃないか。


 もしボクが女だったら? 姉さんにそっくりの美少女だ……うわ、まさか目をつけてたのか? ユーリスだけではなくこんなところにも敵がいたなんて、まったくもって油断も隙も無い。


 こいつも姉さまを慕っている――その可能性を考慮していなかったとは。ボクとしたことが!


「ち、ちげーし! いまのやっぱなしだ。違うぞ、絶対に違う、ぼくはおまえなんか――」

「姉さまはボクのだよ」

「……は」


 呆気にとられたようすのレミルに向かって人差し指を突きつけ、宣言した。


「姉さまは、ボクの姉さま。誰にも譲らない。これはボクにとって一番大事なことだから……仮におまえが、ボクと親戚になるっていう最低最悪の未来が待っているんだとしてもエリーシャ・フォレノワールはボクの姉さんだから。おまえのにはならない」

「……………」

「ねえわかった? 返事は?」



 数拍の沈黙の末、レミルは「おまえ、ほんっとうに馬鹿だな」と言った。

 はぁ、意味わかんないんだけど⁉

 そのあと姉さまたちが帰って来るまで、ボクと姉さんの思い出をほぼ一方的に語り続けていたんだけどレミルは途中から上の空だった。いやほんとまじで腹立つ。


 でもまあ、また遊んであげてもいいかなあ。

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