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Extra10 グレイスローズ第二騎兵隊の日常 -1-


 グレイスローズ第二騎兵隊――主に、貴族の子弟で構成される部隊であるが、皇太子となられたジェスタ皇子が直々に選んだ精鋭ぞろいと評判である。

 

 有事の際は、そのほかの部隊と共に第一皇子の指揮のもと行軍することとなっているが、現時点の任務と言えば訓練と帝都グレイスローズの守護が中心となる。

 定例の見回りをしつつ、西に悲しみに暮れる者がいれば駆け寄って話を聞き、東に困っている者があれば喜んで手を貸す。


 帝都の治安と平和を守る正義の組織――と言えば聞こえは良いが、ただの御用聞きで、いい格好しいの連中だと揶揄する者もいる。が、ラーガ・フォレノワールは自らの仕事に誇りと熱意を持って取り組んでいた。


「ラーガ様、こんにちは。こないだは、座り込んで動けなくなっていたところを助けてもらってありがとうございます」

「いいんですよ、マダム・ロイス。俺は鍛えているので全く問題ないですから!」


 おどけたように腕を折り曲げ、力こぶを見せると老婦人は笑顔で手を叩いた。

 グレイスローズ騎兵隊が纏う、蔓薔薇の意匠の紋章が縫い付けられた紺の軍服は街を歩いているとかなり目立つため、声を掛けられることもしばしばだ。


 特に、ラーガの白銀の髪と日に焼けて浅黒い肌、それに深い赤の双眸は一見、とっつきにくい印象を与え、怯えられることも多いのだが――生来の明るい性格で、誰とでもすぐに打ち解けた。


「またね、ラーガ様」


 老婦人に手を振って別れると、隣を歩いていた隊員が「あの」と声を掛けてきた。

 街の見回りは徒歩で――かつ二人組が基本だ。ゆえに声を掛けてきたのは《《彼女》》に他ならない。


「な、なんだろうかっ、リィ隊員!」


 どぎまぎしながら彼女――リィホァ・ウェンを見ると、じいっと隣に立つラーガを見上げていた。ラーガは長身なので、首が痛くなるほどに見上げなくてはならない。それが申し訳なくて、ラーガは猫背になりがちだった。


「先輩、失礼します」

「ぬっぉあぁ、ど、どうぞっ!」


 いきなりリィホァがすっとラーガの制服の襟元に手を伸ばしてきたので、思わず変な声が出てしまった。

 無表情、というと言いすぎだがリィホァは表情が変わりにくい。うちの妹などは顔を見ているだけで考えていることの大体が想像つくのだが――女性はほんとうに複雑怪奇だ。

 リィホァ・ウェン――百蘭国の出身で、槍では右に出る者がおらず、女性隊員ながら、誰もが実力を認めていた。ラーガは彼女の名前「リィホァ」の発音が難しかったため「リィ」と呼んでいた。


 鴉の濡れ羽色の髪を三つ編みにし、丸く後ろでまとめた髪型は彼女が屯所に差し入れてくれたことがある「お団子」によく似ている。


 などと考えている間に鈴のような声音で「終わりました、先輩」と声を掛けられた。しばらくぼうっとリィホァの顔を見つめていたので「先輩?」と不思議そうに首を傾げられてしまったほどだ。

 女性隊員用の軍服は、男性者とほぼ変わらないデザインだ。濃紺、ダブルボタンの上着に、長ズボン。それでも――彼女が纏うとどんなドレスよりも華やかに見える。


「取れましたよ、糸くず」

「あっ、ああ……ありがとう! 助かった、ははははは……」


 不自然過ぎたか、と焦りながら高鳴る心臓をラーガは宥めた。年下の後輩であるリィホァは百蘭国から留学してきたのだが、ヴィーダ帝国学院の学院祭典で披露された槍術の演舞を見たジェスタ皇太子がスカウトした。


 異例の抜擢ではあるものの、リィホァ自身がこの国とジェスタ殿下への忠誠を誓い、グレイスローズ第二騎兵隊に配属されたのだ。ラーガも所属する第二騎兵隊は風変わりな連中ぞろいのため、女性隊員で異国人でもあったリィホァもすぐに馴染んだ。そして皆から可愛がられている――もとい、好意を寄せられていた。


 ラーガもまたリィホァを想い……いや、ちがう、この感情はそう、妹! 可愛いうちの妹エリーシャに向けるのと同じ感覚である。頑なにそう信じ、言い聞かせて続けてほぼ一年が経過していた。


 一緒に見回りのペアになっただけでこれほどまでに緊張しているというのに。未だに認めないのか、とウィルバーもエリーシャも兄の堅物ぶりに呆れているのだが、ラーガは頑なだった。

 リィホァは同僚。可愛い後輩。月女神ディアナへの聖句のように唱えている様を見かけたサエラに至っては「兄さまキモ」の一言で一蹴した。


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