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38 婚約の裏で -2-


「そういえば、ヴィオラ――君に話しておきたいことがあるんだ」


 書き物机の前に立っていたヴィオラがユーリスを振り返る。何か予感がしたのかもしれない。いまからユーリスが伝えることが、重大なことであると悟ったヴィオラがゆっくりとユーリスの向かいのソファに腰を下ろした。

 姿勢を正し、聞く体勢を整える律義ぶりにユーリスはつい、口元を緩めた。

 いかにも自由人だというように見えるがフォレノワール伯爵は生真面目で、心優しい男だと知っていた。


「誰にも言ったことはないのだけれど、僕にも君たち一族が持つような【異能ギフト】があるみたいなんだ」


 ヴィオラは驚いたようには見えなかった。ある程度、察していたのだろう。


「それを使ってエリーシャに、婚約を迫った。君たち一族の持つ【異能】を世間に暴露すると脅してね」


 伯爵の双眸が赤々と炎のように激しく燃えているのがわかった。この感情の名前は、ユーリスでもさすがにわかる――怒りだ。

 ユーリスは静かに息を吐き、肩を竦めた。


「理解してほしいとは言わないよ。でも僕には協力者が必要なんだ――誰よりも自由な立場で立ち回れる人間が。なにしろ僕の行動はいつだって監視されているから」

「あなたの目的のために娘を差し出せ、というのですか。それで私が『はい、わかりました』と言うとでも? 殿下とは旧知の仲ではありますが、それは私を買いかぶりすぎですよ」


 ヴィオラは長い脚を組んで言い放った。


「私は皇帝陛下よりも、あなたよりも、私の家族を取ります。私の娘を危険な目に遭わせるつもりなら、ユーリス殿下との婚約はどんな手を使ってでも拒みます。子供たちも私の決断に同意してくれるでしょう」

「……ふふっ、あはは」


 突然笑い出したユーリスにヴィオラは厳しい視線を向け続けている。


「ああ、ヴィオラならそう言うと思ったよ。申し訳ないとは思っている。こんなやり方をしてしまって」

「……殿下?」

「でも信じてほしい。僕は君たちの宝物(エリーシャ)を必ず守る。危ないことはさせないし、フォレノワール一族の掟どおり彼女の【異能ギフト】は正しきことのために使う。なにより、エリーシャを自分自身よりも大切にすると誓うよ」


 エリーシャを初めて見た、ウィンダミア卿夫人主催のダンスパーティーの晩「あのちょこまか動き回っている令嬢は何だ?」と不審に思って目で追っていた。


 一曲もダンスを踊らず、あんな不自然に会場中を歩き回っている彼女は誰の眼にも留まらない。銀灰色の髪はシャンデリアを浴びて、眩しく煌めているのに――濃赤の瞳は宝石のように輝きを放っているのに。


――愛らしいレディ、どうか僕と踊ってくれませんか。


 まだ誰にも知られていない花を手折るような気持ちで声をかけていた。探りを入れていた貴族との会話を中断してでも、手を伸ばしてしまっていた。

 ただの興味でしかなかったはずなのに、ユーリスを前にしてびくびくと小動物のように震える彼女をからかいたくてくちづけを落として気づいた。


 彼女こそが、ユーリスが求めていた共犯者パートナーなのだ、と。


 ユーリスはソファを立った。少し考えさせてほしい、と言ったフォレノワール伯爵の言葉にうなずいて執務室のドアの前に立った。


「……ところで、ユーリス殿下の【異能ギフト】とは、なんなのですか」

「ああ――口づけた相手の思考や、記憶の一部を読み取れる……トリガーはキス、しかも一部であってすべてじゃない。そんなろくに使えやしない能力なのだけれどね」


 皇子である自分が口づける相手など女性に限られるし、使える場も限られる。ただこれから「婚約者」となるエリーシャには、幾らでも使用できることだろう。

 彼女が何を感じ、何を考えているのか。秘めておきたい胸の内まで見通せる。その点だけは実に都合が良い。


「殿下……やはり私はこの婚約に反対ですっ! 絶対に許しませんよっ」


 完全に閉じたドアの向こうから激高したヴィオラの声が響いてきたので、ユーリスは足早に部屋を離れた。




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