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21 皇家の夕食会 2

「じゃあウサギ女じゃなくて羊女だ!」

「いい加減にしろ、レミル……レディに対して失礼なことを言うんじゃない」


 うんざりしたようにモーヌ公爵が言う。

 公子のやんちゃな行動はよくあることなのかもしれない。ユーリスがすっと冷ややかな視線を向けると、エリーシャの袖を掴んで盾にして冷気のこもった眸から逃れようとする。


「大丈夫ですよ、公子様。ユーリス様、ああ見えて根は優しい方なので」

「う、嘘だ……あいつ、ぼくを殺しそうな目をしてた!」


 先ほどの剣幕は少年の肝を冷やすのには十分すぎるほどであったようだ。

 よしよし、大丈夫ですよ――グルルにするのとおなじ感覚で、なだめるように頭を撫でていると小さな声で「ごめん」とレミルがつぶやいた。


「ぼくだって話したいこといっぱいあるのに……父上がぜんぜんこっち見てくれないから」

「ええ、大好きなひとに振り向いてもらえないのはさびしいですし、つまらないですよね」


 エリーシャが同意すると、レミルがぱっと顔を上げた。どんぐりのようにつぶらな眸が落ち着きのない子リスを思わせて、つい口元が緩んだ。


「よろしければわたしとお話ししましょう。最近は公子様は何がお好きなのですか、剣術、それとも犬?」

「うんっ、うちにはね、こんなに大きな犬が何頭もいるんだっ。猟にも連れて行く賢い犬なんだけどね、ぼくのことはぺろぺろなめまわしてねっ可愛いんだ!」

「素敵ですね。うちにも羊のお世話をしてくれる犬がいるんですよ」


 食後のデザートが運ばれてくる頃には、なんとかレミルとも打ち解けることが出来た。

 最後の挨拶をして、食事会場だった翡翠の間を出るときには一緒に公爵邸に帰ろうと誘われてしまったくらいだ――ユーリスが睨むと怯えたように引っ張っていたエリーシャの手を離してくれた。


 馬車に乗り込んだモーヌ公爵とレミル公子を送り出してから、そういえば、とユーリスが切り出す。


「葡萄酒がおいしいと伝えたら、地下の貯蔵庫にあるものを好きなだけ持っていくようにと言われたんだった。君は先に帰……」

「一緒に行きます」


 即答すると、ユーリスは意外そうに眉を上げた。


「そう――まあいいけれど、かび臭いところだよ。僕もあまり近寄らない……誰かに取ってきてもらおうかと思いはしたんだが、どうも気になることがあってね」

「気になること、ですか?」


 宮殿へと引き返し、地下室へと続く階段を降りながら、エリーシャが尋ねると「もう忘れたのかい?」とユーリスが醒めた口調で言った。


「不穏な話を聞いたばかりじゃないか。貯蔵庫セラーの中にはこっそり毒でも仕込まれたワインが置いてあるかもしれないよ――もしくは、何者かが仕掛けをするために出入りしているかも」

「うっ……そう、ですね。けして忘れていたわけでは! ふにゃ」


 急に前を歩いていたユーリスが足を止めたので、背中に鼻をぶつけてしまった。呻いているとユーリスがおかしいな、と首を傾げていた。


「どうしたんですか……?」

貯蔵庫セラーは確かここのはずだけれど、隣の部屋のドアが開いている。ふだんは鍵がかかっているはずなのに」


 ふらりと吸い寄せられるように室内に入って行ったユーリスの後をエリーシャは追いかけた。地下全体が燭台を頼りにしないといけないほどの暗さなのに、室内に入るとさらに薄暗い。

 ユーリスが壁に設置された台に手燭を置いたときだった。


「エリー! 後ろだ、ドアを閉めさせるな!」

「えっ、ああっ……!」


 

 ユーリスの鋭い声にエリーシャは慌てて振り返った。

 外側からぎいとドアが軋んで、廊下からわずかに差し込んでいた光が徐々に細くなっていくのが見える。


 次の瞬間――完全に扉は閉じられた。


「やられたな……」


 ユーリスの声は、鎖された暗闇の中で弱々しく響いた。


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