秋風に、たなびく雲の林檎かな。
「あ。あの雲、林檎みたい」
紫子さんの言葉に、みんなが一斉に
空を見上げる。
空にはほとんど雲がない。典型的な、秋の空。
けれどさきほど紫子さんが言ったように
1個だけ、コロンと可愛い林檎の雲が
浮かんでいたの。
「あーあ。結局、タルトタタン。
食べれなかったですね」
残念そうに瑠奈さんが呟く。
「あー。……でもそれはね、仕方ないんだ。
タルトタタンは基本、しっかり冷やして、型から
外すから」
なんて一ノ瀬さんは言う。
基本やっぱりタルトタタンは焦げているって
事で、間違いないのかも知れない。だから
冷やさないと型から剥がせない。そんなところかな?
焦げじゃない。キャラメリング!
なんて、一生懸命一ノ瀬さんは説明していたけれど
凡人の感覚は、それを『コゲ』って言うんだよ?
はぁ……と溜め息をつきながら、瑠奈さんは
空を見る。
食べたかったなぁ……アップルパイ。
アイスクリームをたっぷり添えた、あったかい
アップルパイ。
熱いアップルパイとアイスクリームのコラボなんて
なかなか、お目に掛かれないのです。そこに
たっぷりのキャラメルソースを掛けて……って、
そう思うだけでヨダレが出そう。
ジュルリ……と唾を飲み込みながら、目の前の
フルーツタルトに手を伸ばす。
フルーツタルトも、なかなかのお味。
意外にもフルーツタルトは種類が豊富。
洋梨のタルトにマスカット。それから温州みかんを
ふんだんに使った、お日さまのように眩しい
蜜柑タルト。
結局おやつは、フルーツタルトだけになって
しまったけれど、食べるスイーツは1種類ずつが
丁度いいのかも知れません。
太っちゃうしね、止まらなくなりますしね。
けれど残念。
せめて、タルトタタン、食べてみたかったなぁ。
どことなく意気消沈してしまったみんなに、
一ノ瀬さんは困った顔で、提案する。
「まぁ、アップルパイが失敗してしまったのも
ちゃんと見ていなかった俺のせいでもあるし。
だから、これはお詫びになるかは分からないけれど
今夜改めてうちに来てくれる?
その頃にはタルトタタンも食べれるだろうし
アップルパイもまた、作っておくから。
どうだろう……?」
「「え?」」
目を見張る紫子さんと瑠奈さんに
一ノ瀬さんは焦りの色を見せる。
あー……そうだよね、やっぱり俺のアップルパイとか
お呼びじゃないよねーごめん、忘れて──と言うが
早いか、紫子さんと瑠奈さんがガッツリ
飛びついた。
「行きます! 来ていいんですか。何時からですか。
と言うか、そもそもいつでもお邪魔してもいいん
ですよね? 確か、そんな事言ってましたよね?
いや、はっきり言ってくださいね?
社交辞令とか、そんなのいらないんで、
本音でちゃんと言ってくださいね? 迷惑なら
迷惑だって……!」
矢継ぎ早に2人からすごまれて、一ノ瀬さんは
1歩後ずさり、目を丸くする。
そしてそこへ、にこやかにそっと近づいて、そんな
一ノ瀬さんの守りに入る、ホネホネの
梨愛さん。
……まるで、ご令嬢を守る騎士みたいに見えました。
完全に、立場逆転。
梨愛さん。普通、逆じゃないですかね? 一ノ瀬さんと
梨愛さんの立ち位置って。
「え。あー……うん。別に迷惑とは思ってなくって
むしろ、こんな俺の料理を食べてくれるとか
有難いなって……」
「『こんな』!?」
一ノ瀬さんの言葉に、2人は軽いショックを受ける。
こんな?
一ノ瀬さんの、あの美味しい料理たちが
『こんな』よわばり……? じゃあ、わたし達の料理って
いったいなんなの……?
人知れずガビーンとなる2人。
けれど『いつでも来てもいい』とお墨付きを
もらったも同然。ここは1つ喜んでおくことにした。
「絶対ですよ! 絶対!!
毎日来ても、『もう来んな!』とか言っちゃ
ダメですよ!?」
「え……言わないよ」
「絶対ですよ!
今日また来ますからね、しっかり首洗って
待ってて下さいよ……!」
「え"。首……」
思わず首を守る一ノ瀬さんと、笑みを消して
冷たく目を細める梨愛さん。
やだ梨愛さん。ちょっと怖いんですけど……。
そんな捨て台詞を吐きながら、2人は消える。
そしてその後を、申し訳なさそうにペコペコ
頭を下げながら帰るでっかい猫の玉垂。
「首……斬られても、もう死なないけど──ね」
なんて言って、梨愛さんを見る一ノ瀬さんの甘い声が
悲しく暮れなずむ、秋の夕日に
飲み込まれていくのでした……。
もう一部分、書こうかなと思ったんですよ。
お菓子パーティの風景。
でもまぁ、面倒くさくて……(おい)。
なのでここでこのお話は、おしまいおしまいw
また冬にお会いしましょう(。・ω・)ノ゛
(冬企画の童話でね。てかこれ、全部童話じゃ?w)
続くのかな? ( ˙꒳˙ ٥)まぁ、ぼちぼちやります。