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「いい天気だね、雄二くん」
私のわざとらしい台詞と、すでに鞄を家に置き自転車に乗る平太の様子から、雄二もいつもとは違う何かに気づいた。
「ちょ、お前ら」雄二がサイドポケットをかき回しているとき、私は小遣いを渡す親戚のようにして、紙片を差し出した。雄二はそれをひったくり、順番も考えず、十個の丸を素早く嗅いでいった。
ニイヤ イエ
「お前ら、いい加減にしろよ」
握りつぶした紙を地面に叩きつける雄二を見て、我々二人は揃って空に笑い声を吐き出した。
「こいつら気狂ってるわ、マジあり得ない」と不満を漏らす雄二の横で、我々は溌剌とした顔をして、ついて行く。
二十分ほど街路を歩き、先生の一戸建てが見える角で、我々二人だけ立ち止まった。
雄二を送り出した角から、二人は顔だけ出して見守った。すると、なすべきことを決められず、右往左往する友人の姿をみとめた。
雄二が、家の中か確認するように指差してくるのを見て、平太が「家の中にあるわけねえだろ」と可笑しそうにぶやいた。
五分ほど経ち、二人で関係のないテレビ番組の話など始めたとき、雄二が血相を変えてどたどたと走ってきた。
「郵便受けに手突っ込んだらさ」雄二の手には鍵が握られている。「窓から、女の人が顔出してきた」
我々も雄二に合わせて、一目散に走り出した。
「多分先生の奥さんだろ」平太は悠々と自転車で我々を先導した。
「お前、顔見られた?」私が聞くと、雄二は「いや、塀に隠れたから見られてない」と答えた。
息切れしながら、どうにか言葉を捻り出す雄二を見て、我々はなおも、込み上げるおかしさに腹を引きつらせるのだった。