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2-3

 話を戻そう。


 友美と私は先を争うように、香水の組み合わせ一つ一つが平仮名一文字に対応することを聞かせた。


「こんな香水何十本も覚えられない」結菜が不平そうに言ったが、これにも私が即座に反応した。

「何十本もないよ」私は脇に置いてあった香水の瓶を三人の前に並べる。「香水は全部で七本しかないんだ。画用紙の『二本目』を見るとわかりやすい。香水がドルガバ、グッチ、シャネル、ブルガリ、ディオール、クリード、イヴサンローランの順で並んでるだけだよ。つまり、最初【図1】の一本目はドルガバで、二本目に今言った順で香水が並んでる。画用紙二枚目【図2】の一本目はグッチに変わって、二本目は一枚目と同じ。三枚目以降もこの順で」


「何これ、チャンネル?」雄二が割り込んでくる。それに友美が「シャネルだよ」と突き放すように答えた。


 これを考えた友美が天才だったかは、今でもわからない。ただ私はこのように考えている。友美には当時高校生だった姉がいて、日常的にポケベルを使う姉の姿に影響を受けたのではないか。


 ポケベルは当時流行った通信手段で、家庭電話か公衆電話から送られたメッセージを受信する。ただし、送信はできない。そのカタカナの入力方法は、「ア」が「11」、「イ」が「21」、「カ」が「12」と、非常に独特なものであった。


 この入力の仕方と友美が編み出した暗号規則に類似性を感じるのは、私だけだろうか。いずれにせよ、それを確かめることも今では気軽に出来なくなってしまったわけだが。



 このとき、まだ三人は警戒の眼差しを向けていた。しかし、直前に私が示した成功を無視することもできないようだった。友美が続けて出題した二問目に四人の視線が集中した。


 今度も丸は六個で、計三文字。だが、濁点も半濁点もなく、難易度は極めて高い。

 香水がかけられた画用紙を奪い合うように、四人はそこに代わるがわる鼻をあてた。そう、これは想像の通り異様な光景だった。もし事情を知らない者が見たら、異臭の原因を探る哀れなドワーフだと思ったかもしれない。


 四人は数分間、香水の瓶と画用紙の丸を交互に嗅いだ。たしかこの間友美は、全てを見通した者の余裕と共に、一人でコントローラーを握っていた。唯一答えを知る者をゲームの世界から引きずり出すには、もちろん解読するしかない。その思いをきっと、他の三人も持っていたのだろう。嗅いだ瓶が床に戻されるときの衝突音は次第に増えていった。


「い!」雄二がそう叫び、平太と結菜が同時に画用紙【図1】をひったくる。

 「い」の組み合わせは当然、ドルガバ、グッチ。平太さえももはや、それらが母親の物であることを忘れていたのだろう。我先にという気持ちと、瓶を破壊しないようにする理性がちょうど拮抗し、二本の瓶はそれぞれ四人の手を順に移っていった。


 一文字目の「い」はどうやら正しいらしかった。問題の丸を嗅ぎ、直後に瓶に余る臭気を吸う。これをすることで確信は強まった。

「ねえ、友美」結菜が乞うような声を出す。「一文字目、『い』?」

「うん、合ってる」友美はテレビから目を離さずに言った。


 正解に近づいたことで、四人の作業は一気に加速した。言い換えれば、一種の「コツ」のようなものを全員がつかんだのだろう。見出し始めた効率の良い嗅ぎ方で二文字目、三文字目を推測し、やがて平太が宣言するように言った。「イルカだ」

 友美はコントローラーを置き、振り返った。「みんな、すごい」


 もうこうなると、ドワーフらの出題合戦に歯止めはかからなくなったのである。

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