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モモちゃんに礼を言ってから、私は家に戻り、すぐさま雄二に電話をかけた。分析の過程を丹念に聞かせると、新たに湧いた疑問に彼も首を傾げたようだった。
「平太のプレゼントがなくなったときさ」私が訊く。「神社の屋根なんて探してないよね」
「探してない。あのとき、平太がお堂の床下ばっかり探してたから、プレゼントはそこに隠されたんだと思ってた」
「俺も」
何度思い返しても、拝殿をよじ登り屋根に上がった記憶など浮かんでこない。二人で知恵を合わせても、今度は一つの考えも絞り出せなかった。あのとき、神社の屋根に一体何があったというのか。唯一答えを知る平太が今、「遊ぼう」と家のインターホンを押してくることは、もうない。
「雄二」私はもう半分ほど諦めていた。「暇なときでいいんだけどさ、今度、森勢神社の様子見てきてくれない?十五年も経ってるから、今さら何が残ってるとも思えないけど」
二三日後の夕方、暗号の思い出から離れようとしていたところ、雄二からの連絡が待ったをかけた。
「あった」最初、何が雄二の声を弾ませているのかわからなかった。
「何があった」私はどうせ当時のトレカなど、全然関係ない物について言い出すのだと思った。
「平太の暗号」
頭の中で記憶の断片が、箸でかき混ぜられるようにぐるぐると回った。
暗号?なぜ?
雄二は、私から「モリセ屋根」について報告を受けた後、十数年ぶりに神社に立ち寄ってくれた。いわく、屋根に上がるわけにはいかず、拝殿の周りを何度か歩いて観察した。雄二もまさか何も出て来ないと思ったようだが、軒先の内側を見上げたとき、記憶の隅をくすぐるあの紙片が目に飛び込んだ、という。
それは速達ですぐに送られてきた。赤ペンで書かれた丸の筆跡は、この間分析にかけた暗号と全く変わらない。これも平太が書いたとしか考えられない。丸は全部で十個、今回も五文字。随分色あせていて、紙の端に埃や蜘蛛の巣の跡がうっすらと付着している。もちろん、嗅いでも匂いはしない。だが、屋根の内側で風雨を避けてきたからか、状態は良さそうに見えた。
私は迷わず横に払うようにして、寺本くんのもとへそれを転送した。私もまさかもう一枚暗号が出てくるとは思わず、新たな事情を一から説明した。ありがたくも、寺本くんは我々の暗号解読に理解を示し、追加の分析を快く承諾してくれた。




