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5-2

「お前ら、出しゃばった真似すんな!」


 学活中、ある連中の一人が怒鳴り声をあげた。この「ある連中」とは、北海道百年記念塔[※2]の徐々に垂直近くなる外壁を、どこまで走って登れるか試すような者たちであった。また、彼らは中学に上がると、プライベートではスカジャン[※3]、登校時には革靴とロングコートを好んで身につけた。彼らは、これも簡単に言ってしまえば、いわゆる「不良予備軍」のような存在であった。


 私の考えた「係」が鼻についたのだろう、彼らは学活中、公然と我々を批判し、別の係を考えるよう要求した。だが、新谷先生は苦笑いをしつつも、「やるだけやってみよう」と、我々の希望を支持してくれた。


 連中との遺恨が消えない中、私と幸夫は最初のアンケートを作成し、職員室で人数分コピーしてもらった。そして、休み時間に配ると、彼らは動き出したのである。


「おい!全員、美空ひばりの『川の流れのように』って書けよ!」

 当然、「川の流れのように」は演歌であり、小学生の趣味嗜好とはかけ離れている。彼らが考えた、「出しゃばった真似」をする我々への組織的な妨害工作であった。


 女子は全員、我々の想定通り、ミスターチルドレンやサザンオールスターズといった、それぞれの素直な希望を書いてくれた。しかし、男子の大半は、不良に脅されてと言うより面白がって、美空ひばりをリクエストしてきた。集計後、クラス半数以上の票により、給食時にかける曲は美空ひばりに決まった。私は集めたプリントを手に黒板の前で叫んだ。

「お前らがそう来るんなら、こっちは存分に美空ひばりかけてやるよ!」


 放課後、私と幸夫は、幸夫の父から借りたレンタルショップの会員証を持って出かけた。すでに時代を過ぎていたため、目的の演歌はなかなか見つからなかった。本屋のカセットテープのコーナーでようやくカラオケバージョンを見つけたときは、決して本意ではないものの安堵する、という不思議な感覚を抱いた。


 翌日、教室のCDラジカセにカセットを挿入すると、クラス全員がどよめき出した。

「ホントにかけるの」クラスの誰かが、困惑して訊いてきた。

「お前らが望んだ結果だからな。演歌を聴きながら、美味しい給食を味わうんだな!」私はそう言って、ラジカセの再生ボタンを押した。


 これが数日続くとクラスがどうなるか、想像できるだろうか。人間面白いもので、給食時に演歌が爆音で流れるという状況にも次第に慣れ、全員気にすることなく、普段と変わらない歓談をするようになった。


 突然教室のドアが開き、別のクラスの先生がにやついた顔で新谷先生に尋ねた。

「このクラスはなんでいつも、給食の時間に演歌をかけてるんですか?」

 新谷先生は牛乳のストローに口をつけながら、明らかに答えに窮していた。


 私はそれから今まで、この「美空ひばり事件」ほど意味不明な時間を過ごしたことはない。



[※2]:道立野幌森林公園に建てられた記念建造物。北海道開道百年を記念して1970年に建立されたが、2022年、老朽化により解体工事が始まった。


[※3]:背中に虎や龍などの刺繡が入った光沢のあるジャケット。中学時代、筆者の友人は、「スカジャンを着ている」というだけの理由で、一学年上の先輩から因縁をつけられていた。

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