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「いい天気だねえ、駆留くん」
空は分厚い雲で隙間なく覆われている。私の家の玄関先で四人の声は、パチンコ屋の新装オープンでも知らせる騒がしい楽隊を思わせた。
四人、ということは、つい数日前「もう遊ばない」と宣言した友美もいた。予想外でもあった友美の笑顔は印象的であり、また、すぐ先の苦難を示す悪魔の宣託にも見えた。
「ちょ待、 ちょ待 、 ちょ待 」
私の声を無視して、暴走した子供たちが次々と家の中へなだれ込んでいく。「お邪魔しまあす」
私の母親は「あらあら、いらっしゃい」と、世間向けの物腰で彼らを出迎えた。一方私は、夥しい数の虫に、四方八方から侵入される心地でいた。
四人は二階の私の部屋に入るなり「どれがいいかなあ」と、近所のバザーにいるような声を発し始めた。
「ちょっと待ってみないか、君たち」私が雄二を抑えると、他の三人が物色を続ける。
「待つことを学んでみないか、君たち」平太を止めても、やはり三人が跳梁跋扈する。「君たち、そこに辞書あるからさ、『待つ』の意味を調べてほしいんだけど」
そのうち結菜が、私を廊下へ強引に押し出した。そして、入り口の襖を閉めると、ふざけ切った顔で言った。
「この先には『正直村』と『うそつき村』があります。『正直村』へ行くにはどうすればいいいでしょう?」
「なぞなぞなんてどうでもいいから、どいてくれよ!」
数分経ってようやく三人が出て来た。その顔はどれも、贔屓の野球チームが勝利を収めたときのように満足げであった。
「じゃあな、駆留くん。いい夢見ろよ」雄二が言い残し、四人は去っていった。閉じられた玄関の内側で、私は裸足のまま一人つぶやいた。
「あいつら、本当に帰りやがった」
当然部屋に戻ったが、そこは予想したほど雑然とはしていなかった。むしろその何も語らぬ「平常」が、確実に何かなくなっている不安を必要以上に膨らませた。学習机の上には、鍵っ子に宛てるようなメモが置いてあり、近寄らずとも六個の丸が書いてあるのがわかった。
一通り部屋を見渡しても、やはり何を盗られたかはわからない。私は全身で大きくため息をついてから、机上の紙の香気を鼻から吸い込んだ。
ユキオ
「ちょっと本屋に行ってくる」私は家人に嘘をつき、物置から出した自転車に跨った。




