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「友美、あったよ」結菜が、いまだうるさい庭を指差す。
「うわ、最悪」
顔をしかめながら友美は、自分のCDが置かれた犬小屋に近づいていった。すると当然、隣家側から犬が金網に突進し、友美はまた「うわ」と、二三歩後ろへ駆け戻った。
「さっきから誰だ」
家の窓が突然開き、もちろん家主であろう、五十代くらいの男性が現れた。その顔からは、数匹の蠅が飛び交っているような鬱陶しさが、あらゆる方向へ拡散している。
「その犬かわいいですね」後で結菜に聞いたところ、そう言ったらしく、これは珍しい彼女の機転であった。言われた家主は一瞬面食らった顔をし、「何だね、君は」と、ぐらつく威厳を支えるように言った。
遠くにいた我々は友美の動きも見逃さなかった。一旦家主の視界から消えると、神社を囲う茂みをぐるりと回り、隣家を目指した。友美が門に着く頃に犬は、家主の声がする方へおびき寄せられていた。ただし、結菜に対しても威勢を隠そうとはせず、金網に爪を立てながらなおも吠え続けた。
「この状況、何?」平太が笑いでくしゃくしゃに歪めた顔を私に近づけてきた。
たしかに辞書に「女児が中年男性を引き留め、その間、もう一方の女児が庭へ侵入を試みる。その際、飼い犬は吠え、且つ犬小屋にはスマップのCDが乗っている」という意味の言葉が載っているとは思えない。私は笑っていいのかわからず、ガードレールに手をかけながら、ただ動静を見守った。
きゃあ、と悲鳴が聞こえ、犬に押し出されるように、友美が門を走り抜けた。家主の怒声、犬の鳴き声を背に、我々三人は自転車で友美の後を追った。振り返ると、結菜も立ち漕ぎで我々に追いついてきた。
道の角で息を切らせてたたずむ友美の元に、四人が集まった。悪ふざけが過ぎた空気を、私を含め全員が感じ取っていただろう。だが、最後に事実を言わねばならず、私は口を開いた。
「中開けて、CD見てみ」
友美がケースのふたを開け、私以外の四人がそこに顔を寄せた。そう、私は二枚のCDを見せてもらった際、『$10』ともう一方それぞれの中身をすり替えていたのである。
それを知った瞬間、友美は頬を真っ赤にして泣き出してしまった。
「もう、あんたたちとは遊ばない!」




