表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/30

3-5

 賢明な読者諸氏はお気づきだろう。我々の『宝探し』は、「xxちゃんにクッキー焼いたから、隠し場所教えるね」「わあ、ありがとう。楽しみで今からわくわくしちゃう」などといった生易しいものではなかった。

 

 悪戯に味をしめた我々三人は、さらに別の日、公園のベンチで呑気に談笑する友美と結菜に近づいていった。


「いい天気だね、お嬢さんがた」

 雄二のこの普段言わない挨拶を、結菜は怪しもうともせず、額面通り受け取った。

「ホントいい天気。一年中、こんなに涼しかったらいいのに。あ、そうそう見て見て」


 結菜は言いながら、通学に使っているナップザックから、「シングル」と呼ばれていた8センチCDを二枚取り出した。


 それらは丁寧に縦長のプラスチックケースに入れられていて、几帳面な女子の性格を湖面のようにありありと反映していた。


 二枚のうち一枚はスマップのシングルで、『$10(テンダラーズ)』だったように思う。もう一方も同じくスマップだったと思うが、残念ながらそれは忘却の彼方にある。


「ナカイくん、かっこいいよねえ」友美もまだこの時点では、我々の謀略には気づいていなかった。

「私、大人になったらモデルになって、ナカイくんと結婚するんだ」


 友美のこの青写真に対し、平太が「お前一回鏡見た方がいいよ」とあけすけに言った。すると友美が「何こいつ、むかつく」と返し、そこから低次元の言い合いが始まった。


 この隙に私は、二枚のうち『$10』をズボンのポケットに隠した。さらに、雄二が用意していた紙片を、千円札のようにひらひらと女子二人の前で散らつかせた。


 このとき、友美が先に勘づいた。

「やめて、お願い!『$10』だけはやめて!」

 どうやら友美が結菜に二枚のCDを貸そうとするところだったらしい。


 『$10』のシングルが結菜の鞄から消えていることに気づくと、友美は半狂乱になって、もう一枚の方を、私と雄二交互に差し出してきた。


「こっちならいいから!お願い!ホントに『$10』だけはやめて!それなくなったら、私生きていけない!」


 よっぽど気に入った曲だったのだろうが、正直、友美がここまで取り乱すとは想像しなかった。私が素直に『$10』ともう一枚を交換しようとすると、雄二が制し、その後男子と友美との交渉に発展した。


 そこでのやり取りの細部は覚えていないが、たしか「たかがCDじゃん」と呆れを交えて、笑いあったことは微かに思い出せる。


 結局友美の懇願に押され、隠す「宝」はもう一方のシングルと決まった。


 我々は、頭を抱える友美の膝に、香水で「モリセ」と書いた紙片をそっと乗せてあげた。そして、目的地がバレないよう自転車で大きく迂回して、森勢(もりせ)神社へと向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ