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賢明な読者諸氏はお気づきだろう。我々の『宝探し』は、「xxちゃんにクッキー焼いたから、隠し場所教えるね」「わあ、ありがとう。楽しみで今からわくわくしちゃう」などといった生易しいものではなかった。
悪戯に味をしめた我々三人は、さらに別の日、公園のベンチで呑気に談笑する友美と結菜に近づいていった。
「いい天気だね、お嬢さんがた」
雄二のこの普段言わない挨拶を、結菜は怪しもうともせず、額面通り受け取った。
「ホントいい天気。一年中、こんなに涼しかったらいいのに。あ、そうそう見て見て」
結菜は言いながら、通学に使っているナップザックから、「シングル」と呼ばれていた8センチCDを二枚取り出した。
それらは丁寧に縦長のプラスチックケースに入れられていて、几帳面な女子の性格を湖面のようにありありと反映していた。
二枚のうち一枚はスマップのシングルで、『$10(テンダラーズ)』だったように思う。もう一方も同じくスマップだったと思うが、残念ながらそれは忘却の彼方にある。
「ナカイくん、かっこいいよねえ」友美もまだこの時点では、我々の謀略には気づいていなかった。
「私、大人になったらモデルになって、ナカイくんと結婚するんだ」
友美のこの青写真に対し、平太が「お前一回鏡見た方がいいよ」とあけすけに言った。すると友美が「何こいつ、むかつく」と返し、そこから低次元の言い合いが始まった。
この隙に私は、二枚のうち『$10』をズボンのポケットに隠した。さらに、雄二が用意していた紙片を、千円札のようにひらひらと女子二人の前で散らつかせた。
このとき、友美が先に勘づいた。
「やめて、お願い!『$10』だけはやめて!」
どうやら友美が結菜に二枚のCDを貸そうとするところだったらしい。
『$10』のシングルが結菜の鞄から消えていることに気づくと、友美は半狂乱になって、もう一枚の方を、私と雄二交互に差し出してきた。
「こっちならいいから!お願い!ホントに『$10』だけはやめて!それなくなったら、私生きていけない!」
よっぽど気に入った曲だったのだろうが、正直、友美がここまで取り乱すとは想像しなかった。私が素直に『$10』ともう一枚を交換しようとすると、雄二が制し、その後男子と友美との交渉に発展した。
そこでのやり取りの細部は覚えていないが、たしか「たかがCDじゃん」と呆れを交えて、笑いあったことは微かに思い出せる。
結局友美の懇願に押され、隠す「宝」はもう一方のシングルと決まった。
我々は、頭を抱える友美の膝に、香水で「モリセ」と書いた紙片をそっと乗せてあげた。そして、目的地がバレないよう自転車で大きく迂回して、森勢神社へと向かった。




