マジでそっち? 死ぬよ?
「あ、買えました?」
「うむ! これお釣りだ」
「あれ、結構安く済みましたね。もっと良い下着を着ても——っいでててごめんなさい」
「本当にお主は……」
銀貨を20枚渡して、俺は店の前で待っていた。
全部使ってくるかと覚悟していたが、意外にも返されたお金は銀貨19枚と銅貨がいくらか——つまり、銀貨1枚も使ってこなかった。
下着ってそんな安い物だっけなー。
レスティア様は相変わらず俺の足の甲を踏むのが好きな様だ。
精密に言えば、この人前で蹴り入れるとかは目立つから代わりに踏んでいるだけだろうけど。
「あれ? 買ったものは?」
「ここにあるぞ」
買い物をしたはずなのに、紙袋を持っていない。
不思議に思って聞くと、レスティア様は手に持っていた二つの物を見せてくれる。
「え、それって……紐?」
「そうだ。昔と違うて魔法に頼れぬから、先程の様に近接戦闘する機会が増えると思うてな。そうなるとどうしてもこの髪が邪魔でのう」
「なるほど。今結びますか?」
「そうじゃな。少し待てるか?」
「待ちます」
麗しい銀髪を左右に分け、右側から束を作り結ぶ。
黒い紐——少し幅のあるそれを器用に使い、綺麗な輪っかが大きめなリボンを作った。
反対側の左も、同じ要領でリボン結びをした。
うん。良い。
流石レスティア様。黒を選んだのは正解だ。
見た目だけで言えば幼女——これ連れて歩いてて俺捕まらないか? 大丈夫だよな?
「おい。また気持ち悪い目をしておるぞ。もっと顔を引き締めなさい」
「あまりにもお美しいお姿なので見惚れていました」
「まーた調子の良いことを言いおって」
とか言いつつ、毛先をくるくるしてるんだもんな。
照れ隠すの下手すぎるんだよ。もちろんそれも可愛いから良しだけども。
「とりあえず、この街を出るとしようか」
「え? もう出発するんですか?」
「ああ。私達には時間がない。封印が解かれたことは他の魔王達にも気付かれていることだろうからな。一刻も早く私だけでなく、お主にも強くなってもらわねばならぬ」
「つまりレベル上げをするってことですよね? ならこの街を拠点として賃金稼ぐのと平行でいけません?」
既に歩き始めているレスティア様を追いかけながらも問う。一番近い街まで数日間かかる距離にあるのだから、食料も買い溜めしてから行きたいんだけど。
「何を言っておる。この辺りに生息している魔物は愚か、人族とて雑魚ばかりではないか。こんなとこにいつまでも居る価値は微塵もないぞ」
「あ、はい」
呆れた顔で俺に告げる。そうだよなぁ始まりの街だもんな? 魔王様とその下僕がいて良いような場所じゃないってことですねわかります。
「でも、それならどこに向かうんですか? 次の街——【ダルクの街】ですか?」
「ふむ。ここから北にある街か……いや、先に東に行くぞ」
「東? えっ、まさかバリット地方ですか⁉︎」
「そうだ。地名は変わっておらぬようで話がしやすいのう。恐らくバリット地方に『偉大なる魔石』がまだあるはずだからそれを取りにいこうと思う」
この街がある大陸——というには少し小さいが——には二つの地方があり、ミグル地方は比較的安全な場所だ。ここ、【ミグルの街】から西に行ったところにある【トルクの街】、北に行ったところにある【ダクルの街】そして、さらにその北に【王都ミグラード】がある。
だがここから東に半日ほど歩くと森林地帯となっている、魔素が濃い地域がある。そこはミグル地方ではなく、バリット地方と呼ばれている。この森林地帯にはA級クラスの魔物が出るらしく、滅多に人が入ることは無い。だが、たまに冒険者として慣れてきてしまったD級、E級の奴らが己を過信して入っていくことがある。勿論歯が立つわけもなく、パーティで入って行ったのに帰りは1人だけ、もしくは誰一人として帰ってくることはない。
「やめません? 流石にまだ早いですって」
「今のお主なら余裕だぞ。安心せい」
安心なんてできるかー‼︎
一つ級が変わるだけで戦力段違いに上がるんだぞ⁉︎
いくらなんでも無理だよ。水魔法効かない魔物とか、速すぎて当てられない魔物が出たら詰みじゃん。せめて他に魔法覚えてから挑みたいもんだ。
「……はぁ。私の力を信じろ。そのスキルを元に魔王まで成り上がったんだぞ。今のお主に勝てない相手なら私が撤退を命ずる。その時は全力で逃げれば良いのだから」
「逃げ切れる保証あるんですか?」
「あるある。ほらいくぞ」
面倒臭さそうにあしらわれる。
くそー。いくら力持ってても、扱う本人がF級なんだからそこら辺配慮してほしいもんだぜ。
「ん? この服……なるほど、お主、良い物を選んでくれよったな」
「え? なんのことですか?」
レスティア様はふと何かに気づいて納得していた。
嬉しそうに笑みを浮かべている。
「この服、バフ効果があるようだぞ」
「マジで?」
随週更新です。
よろしくお願いします。