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治癒魔法、便利すぎる

「だって、知ってますか? 俺のレベルいくつか知ってますか?? 聞いて驚かないでください、なんと5Lvです! 一年間ずっとダンジョンに潜り続けて、やっと5Lvですよ?? 一昨日ギルドで確認したばかりなので正しいはずです。どう思いますか? レベル解放、いらないと思いません?」

「そんなことでこの素晴らしい効果を要らぬと言うのか……まあ良い、いくら愚かなお主でもわかる日が来るであろう」

「ははは、だと良いですけど。 それより——」


 未だに頭を踏みつけてくるレスティア様を見上げると、腕を頬を膨らませて如何にもな表情をしていた。


「なんだ?」

「当分動けるようにならないと思うんですけど、次また魔物に襲われたらどうします?」

「む? あぁ、治癒魔法を使えぬのか。仕方のない奴め、私が回復してやろう」

「あ、その手があったか……是非お願いします」


 自分が使えないから治癒魔法の存在を完全に忘れていた。そうか、一応初級魔法にも治癒魔法はあるから今のレスティア様でも使えるんだな。

 レスティア様は俺の頭から足を退けると、しゃがんで俺の身体に手を当て詠唱を始めた。


「魔炎レスティア・アグニスが命ずる。精霊の祝福を此の者へと降り注げ、ヒーリング」

「おお」


 青白い光に包まれ、みるみるうちに身体の痛みが鎮まっていく。


「ありがとうこざいます! 初級魔法でもすごい回復量ですね!」

「これしきどうということではないわ」


 俺はすくっと起き上がると、戦闘前よりも身体が軽くなっていることに気がついた。

 レスティア様は褒められたことが嬉しかったのか、腕を組みながら誇った顔をしていた。


「よし、ではそろそろ行くぞ。夜になってしまう」

「はい! あ、ちょっと待ってください! こいつの魔石を……森にこんな危険な魔物がいるって報告できれば報酬が貰えるかもしれませんし」

「仕方ないのう。急ぐのだぞ」


 徐々に日の位置が落ちてきている。

 夜の森は敷居が一気に上がってしまうので、早々に抜け出したいところだが、冒険者として稼ぐからにはこれを忘れちゃあいけない。

 魔物は身体のどこかに魔石を含んでいるのでそれを持ち帰る。ギルドには魔石を識別できる装置があり、識別するとその魔石の持ち主であった魔物の種類、大きさ、強さなどを数値化することができるのだ。

 どういう仕様かはわからないが、その出てきた数値によってこれまたランク付けがされる。弱いものから順にF〜SSSランクと言った具合だ。


「よし……っと、お待たせしました!」

「遅い! 日が暮れるかと思ったぞ」

「すみません不慣れなもので……」


 ルビーのように赤い魔石を取り出し肩から下げている鞄に入れた。

 レスティア様には怒られてしまったが、俺はこれほど大きい魔物をたおしたことがないのだ。許してくれ。




「ところでレスティア様」

「なんだ?」

「レスティア様って魔王なんですよね? それもこの地域の支配者ならあの魔物も配下なんじゃないんですか? なのになんで襲ってきたのかなと……」


 歩きながら疑問に思ったことを質問した。

 よくよく考えたら、魔族の王だから魔王なのに、末端である魔物に襲われるってどういうことなんだ?


「ほう? 痛いところを突いてくるではないか」


 レスティア様は神妙な顔で隣を歩く俺を見ると、悲しそうに語り出した。


「あれは私が封印される前——つまり、他の三人の魔王と争っていた時の話になる。当時の私は歴代最強の魔王とも謳われていてな、配下も精鋭揃いだった。だが、彼奴らは報われなかった。指揮者が無能だったからのう」


「指揮者……魔王……レスティア様のことですか?」


「ああ。皆から褒め称えられ、調子に乗っておった私は部下のことなんぞ何も考えておらんかった。出す指示と言えば突撃くらいであったからな。無論そんななんの策のない命令をするものだから、従った者は犬死にして行ってしまったよ。結局私自身が赴くことになる。それ故に当時の私は思った、なぜこれほどまでに私の下僕どもは弱いのかと。今考えれば誰しもが孤軍奮闘できるわけではないのに無茶な命令を出していたと反省しておるがな」


 レスティア様が話し終えると、暫し沈黙が生まれた。

 俺が何を言えばいいのかわからず黙ってしまっていたからだ。



「これが私に配下がいない理由だ。だからここら辺に棲んでいる魔物は私の命令には従ってくれない。全盛期の力があれば話が変わってくるのだけれど」


 全盛期……か。

 俺がもらったスキルですら超強力なんだ。他にも強化スキルは持っていただろうし、本気で魔法を行使していたら世界滅亡してもおかしくなかったかもしれない。


「あの、もし今後力を取り戻していったら最終的には人間と戦うんですか?」


 今の時代では魔族は魔大陸、人族は中央大陸と別の大陸に暮らしていると聞いたことがある。だが最強と言われていた魔王が復活したら——? 世界の情勢がまた変わってしまうのではないだろうか。


「何を言っておる。私は人間と共存する道を選んだから他の魔王と全面的に戦う羽目になったのだぞ?」

「共存? 魔王が? 人間と? 流石に勉強不足の僕でもわかりますそれは嘘です。小さい頃から魔族は残虐非道な行いで人族を蹂躙しまくってたって聞いてましたもん」


 おかしなことを言い出すレスティア様に、俺は嘲笑しながら言った。


「それは……最初は私もそうであった。だが、戦争を繰り返しているうちに何のために戦っているのかわからなくなったのだ。だから私は他の三人の魔王に争いをやめて、同じ生命を持ったもの同士助け合って生きていくべきだと、そう提案した。無論反対されたがな。それ以降は人族、私率いるアグニス軍、他の魔王軍達の三つ巴状態となってしまったのだ」


 レスティア様はどこの書物にも書いていないであろう歴史を次々に語ってくれたが、真実かどうか全くわからない。せめて歴史くらい勉強するべきだったと後悔した。


「でも魔王軍優勢だったんですよね? この辺りまで攻め入ってたくらいですし。あと少しで全制覇できるって時になんで急にそう思ったのかが俺には理解できません」

「それは……ごほん、色々あったのだ。それはまた機会があれば話してやる」


 一瞬朱色に頬を赤らめたレスティア様は、咳払いをすると話を止めてしまった。

 どうも信憑性に欠けるが、当事者が言ってるんだから信じよう。まだ数時間の付き合いだが、嘘をつくような人には見えないし。

 俺もこれ以上深くは聞かなかった。





「お、道だ! 看板もありますね……っと、こっちが俺の今からしている街【ミグルの街】ですね」

「おお! だから私に付いて来れば問題ないと言ったのだ!」

「そうですね! さすがレスティア様!」


 道なき道を進んでいると、人工の道へと出られた。

 運の良いことに丁度方向が記されている矢印看板も近くにあった。

 始まりの街とも言われている【ミグルの街】がある方を読み上げると、レスティア様は「早く行くぞ」と早速さと歩いて行く。


「って、待て待て! もしかして街に行くのか!?」

「ん? 何を今更。街に行かねば食事も寝床もないではないか。それともなんだ、お主は野宿がご希望か?」

「そういう訳ではないですけど……魔王が人里に降り立つなんてことして大事にならないかなと」

「今は力も無くしておるし、大丈夫だと思うぞ」

「どこからそんな自信が出てくるんですかね」

「知りたいか? ここだけの話だけど、この地域を統べていた時に何度か行ったことあるんだ。こうやって振る舞えば人間の女の子扱いされるからな」


 レスティア様は、人差し指を顔の隣に持ってくると、口調を変えて話した。


「お、おおおそうなんですねなら大丈夫でしょう! 早速いきましょう!」


 自分でも単純だと思う。

 だけど、輝く翠眼にさらさらと揺れる銀髪、それに加えて整った顔立ちでこんなポーズされれば年頃の男子なんてみんなイエスマンになるだろ。俺がその代表だ。

 既に危険性について考えるのはやめていた。


「なぜ目を逸らすのだ。このどこから見ても完璧な美少女に関心を抱かないのか?」

「自分でそれ言っちゃうあたり残念系なんだよなぁ……うぐっ」


 膝蹴りを貰った。

 いくら見た目が可愛くても本性は魔王なんだ、気性が荒いのは仕方のないことなのだろう。


「さ、行きましょ」



 再び健気な少女風な声を出すレスティア様に若干戸惑いつつも、街へと向かった。

夕方にも更新致します。


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