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sss級スキル《アグニス》

 この世界には魔法だけではなく、”スキル”というものが存在する。スキルにはCからSSS級の等級があり、1〜8枠をC級、9〜16枠をB級……と、8枠刻みで分けている。ちなみに、人族には48枠という上限があるため、41枠以上使うものは際限なく全てSSS級とされている。

 その効果は、俺が持っている《幸運+1》とかいう無意味な物から、《筋力倍加》や《未来予知》など、目から鱗が出る代物まで様々だ。普通は枠数が増えるほど強力なスキルになっていく。


 しかし、生まれ持ったスキル以外に手に入れる方法はスキル結晶を使用するしかない。スキル結晶は高価も高価、国家予算を平気で超える額で取引されるので、大抵は手に入れることが不可能。つまり、生まれながらにして”勝ち組”と”負け組”が存在することになる。


 もちろん、俺は後者。ここまで雑魚スキル一つで生きてこれたのを褒めて欲しいくらいだ。

 というのは過去の話よ、今は勝ち組、いや、大勝利組かもしれない。なんせSSS級スキルを手に入れたのだからな!


「なにをニヤニヤしておるのだ。体力回復したのなら行くぞ」

「あ、すみませんレスティア様。行きましょう」


 嬉しさが表情に漏れていたらしく、怒られてしまった。

 俺たちは今、森の中を歩いている。始まりの洞窟から入ったのだからそこから出られると思うじゃん? 残念、見たこともない森の中に放り出されました。

 レスティア様曰く、時空を歪めた時に座標がずれたとかどうとか言っていたが、俺にはわからん。



「それにしても、もう5時間くらい歩いてないですか? ここら辺征服してたんなら道くらい把握しておいてくださいよー」

「うるっさいぞ小僧。数百年も経てば道の一つや二つ忘れてしまうわ」



 森の雰囲気からしてミグル地方——俺が拠点としていた辺りではあるのだが、いきなり放り込まれればどっちに行けば良いかもわかるはずがない。

 だが、レスティア様が「私に任せておけ!」とか言うから期待したのに、結局遭難だ。


「まあいつか出れると信じてますよ。それより、スキルについてそろそろ教えて欲しいんですけど……」


 仮にも魔王だ。遭難して野垂れ死ぬとかないでしょ。

 俺は一向に教えてくれないスキルの概要の方が知りたいんだ。


「だからそれは後でと言っておろう。少しくらい待てないのか」

「少しって、もうだいぶ経ちますよ?! 遭難してる間は教えてくれないんですか? 魔王ともあろう方が、遭難なんかしてたらカッコつかないですもんねー?」

「……」


 俺が煽ると、レスティア様は無言で立ち止まってしまった。

 もしかして、怒らせたか……?


「あ、あのー、軽い冗談で」「静かにしろ! 何かいるぞ」


 レスティア様はそういうと、進んでいた方向から右手側の方を向いた。


「何かって、魔物ですかね? 流石にただの魔物が魔王に歯向かって来ないでしょ」

「いや、今の私はそこらの人間より弱いぞ。魔王としての力がないのだから、普通に襲われる」

「はっ?! やばいじゃん! どーすんのよ!」

「バカ! 大きい声を出すな!」


 レスティア様に注意されたが、既に遅かった。

 普段生き物が通らず、無造作に生い茂っている草木がガサガサと揺れると、勢いよく大きな影が飛び出してきた。


「グワガァ!」


「避けろ!」


 俺はレスティア様に数メートル吹き飛ばされた。


 起き上がって明らかになる魔物の姿。

 鋭い爪、所々に赤黒くなった染み、剥き出しの牙。

 熊のようなシルエットだが、それと比べるには無理がある。


「な、なぁレスティア様、あいつ、どうにかしてくださいよ」

「……残念ながら、()()()()()を倒せる実力はない。さっきも言ったけど、私は人間以下の強さなのだから」

「え、じゃあやばいじゃないですか早く逃げましょーよ!」


 魔物の攻撃を一足飛びで躱しながら俺のところまで飛んできたレスティア様とヒソヒソと、しかし声は張り上げて話す。


「こう言う時のためにお主にスキルを授けたのではないか! それを使え!」

「いーやいやいや、教えてもらってませんけど! どうやって使うんですか! 効果なんですか! だから早く教えてって言ったのに!」


 一歩、また一歩とダークベアと呼ばれていた生き物は近づいて来る。


「魔法を放て。炎魔法以外でな」


 ガタガタと震えながら剣を構えている俺に、レスティア様はそう言った。


「魔法? 俺、ウォータージェットくらいしか使えないけど……」

「何でも良いから使えと言っておるんだ! 早くしろ!」


「わ、わかりましたよ……。“偉大なる水の女神アルシノンの名において水洗の如く降り注げ ウォータージェット!”」


 詠唱を終えると、全身から血が抜けるような感覚に蝕まれ、全神経がダークベアに向けた右の手に集まって来る。


「グッガァァ!」


「?!」


 俺が放つ水鉄砲は、いつもならば濡れるくらいで、威力はほとんどなかったはずだ。それが今放たれた魔法は一直線に、そして発射されてから瞬き一つする間に数メートル先のダークベアを貫いていた。


 どさり、と大きな身体を倒すと、その後ダークベアが動くことはなかった。

 運良く心臓を貫いていたようだ。狙ったわけじゃないけど。


「た、倒した……?」


 自分の倍以上もある魔物を倒したことなんて一度もない。

 今起こっていることを理解できない。


「うむ。上出来だ。しかし、無茶苦茶な詠唱でよく魔法が使えるものじゃのう。水洗は失礼すぎるぞ」


 レスティアはダークベアが完全に息絶えているのを確認すると、俺の方へと振り返り、呆れ顔でそう言った。


「だって、俺のウォータージェットなんて攻撃魔法として使えなかったし……って、そうじゃない! これがレスティア様のスキルの力なのか?!」

「そうだ。お主に先に言っていたらどうせ試し打ちしていたであろう。だから教えなかったのだ」

「そりゃしますけど」

「お主、もうすぐ倒れるぞ」

「……は?」


 そう言われた瞬間、俺は身体中の力が抜け後ろに倒れた。

 手も足も動かない。指すら動かせない。脈がいつもの倍以上の速さで打たれているのを感じる。


「こうなるのを危惧して教えなかったのだ。お主は根本的な魔力量が少なすぎる。それ故に私のスキルで強化された魔法を使えばすぐに枯渇するのは当然だろう」


 レスティア様は倒れた俺に近づくと、上から顔を覗き込んでくる。


「私のオリジナルスキル《アグニス》はな、()()()()()があるのだ。そのうちの一つが炎系魔力の出力を100倍にするというものがある。その副産物として他の属性は10倍となるが、消費魔力はどれも100倍になってしまう。だからお主のような軟弱者は一発で超枯渇してしまうのだ。もっと鍛えておけ未熟者」


 超枯渇……枯渇状態を更に超えた状態のことか。

 それにしても、先程煽りまくったせいか、すごく毒舌だな。しかも、俺の頭を踏みつけて来る。うん、これもいいね。なんか目覚めそう。


「あ、あの、後二つの効果は?」


 ぐにぐにと踏まれ続けるが、身体は動かないのでどうしようもない。辛うじて口は動くので他の二つについて尋ねると、

 レスティア様は一旦踏むのをやめてまた説明をしてくれる。



「もう一つがそれを打ち消す為のものだな。普通の者が一晩使って回復する魔力を、小一時間ほどで回復させる効果がある」

「なるほど。じゃあもう少ししたら動けるようになりますかね」

「いやいや、何を言っておる。お主は魔法の反動で身体も逝っておるのだ。枯渇状態が治ってもまだしばらくは動かぬぞ」


 どうやら、俺の弱さを俺自身よりもわかっていらっしゃるようだ。もっと身体鍛えときゃ良かったなぁ〜。


「そして、最後の効果はな、これが一番重要なものでもある。レベル上限解放と言うものだ。私達魔族のレベル上限は999Lvだが、お主ら人族のレベル上限は99Lvであろう? それを取っ払うと言うものだ。つまり、これがあれば無限に強くなれるという革新的な効果となっておる」


「えええええ!? それは一番いらないですよ!……ってや、やめてくだざいいい」


 俺が即答すると、先程の倍以上の強さで顔を踏まれた。


昼にも更新します。

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