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出会いは始まりの洞窟にて

「こんな道あったか?」


 俺は最近のルーティーンである、始まりの洞窟でのレベル上げをしていると、今まではなかった所に脇道が出来ていた。


「進んでみるしかないよな」


 所詮は始まりの洞窟。

 せいぜいオークレベルの魔物しか出ないだろう。

 それくらいの魔物なら逃げれば良い。



 脇道を抜けると少し広い空間に出た。

 どうやらここで行き止まりらしい。


「おいおい、オークどころかゴブリンすら出てこないのかよ」


 いつも通っている道を進めばそれなりに魔物はスポーンするのだが、この脇道には一匹も湧いてこなかった。


「ちぃ、戻るか」


 俺はただ広いだけの空間を一周して、本当に何もないことに落胆しながら戻ろうとした。

 できる冒険者であれば、この時点で違和感を感じていただろう。だが俺はF級――つまり一番低いランクに所属している末端冒険者だ。そんな違和感感じられるわけがない。


 ゴゴゴゴゴッ


「なんだ?!」


 広場から通路へと戻ろうと近づくと、地震でも起きたのか部屋全体が大きく揺れだした。

 壁がぐにゃりと曲がり、フロアが再形成されていく。


「な、何が起こってるんだよ!」


 来た道は無くなり、ただ広かっただけのフロアにオブジェクトが形成されていく。

 段々と部屋が赤く染まり、ドロドロとしたものが壁全体を覆っていく。


「うわっ! これ、マグマか!?」


 せっかく金を貯めて買ったブロンズアーマーが一部溶けてしまった。今回の冒険で初めて装備したのに……。


 本来ダンジョンというものは入るたびに形を変えるものなのだが、ここ始まりの洞窟では再形成されないように固定化魔法が施されていたはず。なんでいきなり魔王城前のダンジョンみたいなフロアになってんだよ。

 立ち尽くしていても意味ないし、マグマを踏まないよう慎重に部屋の中央――突起した岩のような物がある所へと進むことにした。




「何用でこのヴォルテクスに足を踏み入れたのだ」

「だ、だれだ!」


 揺れと轟音が完全に収まり、再形成が完了すると、突起した岩――と思っていたそれは、見事な王座となっていて、そこに座っている人が声を発した。


「紙同然のその装備、お主村人か?」

「紙とは失礼な! これは皮の装備よりも強いブロンズ装備、それも一式だぞ! 人が頑張って買った装備をバカにするとはいい度胸だな。降りてこいよ!」

「ほう? この私に指図するか。面白い」



 恐ろしく妖艶な声を発するその人は、可憐な銀髪を重力に逆らわせ、ゆっくりと王座から降りてきた。


「な、なんだよ! てかお前誰なんだよ!」


 重力操作系の魔法を使ったのか、それともそういったスキルがあるのかはわからないが、重力を操れる者はこの世界には数えるほどしかいないはずなのだ。

 つまりは、控えめに言ってヤバい奴ってこと。


「ふふふ」


 こちらへと向かって歩いてくる。気圧されて俺は一歩下がった。


 徐々にその距離が縮まり、俺はあることに気づいた。


「あれ……子供?」


 このようなフィールド、登場の仕方、気迫のある声と条件が揃えば、もっとすごい厳つい人だと思っていたのに。

 そこにいたのはせいぜい12歳くらいの女の子だった。


「こ、こここ、子供だと!? 貴様だってガキではないか!」

「いやいや、俺これでも16歳だかんな? 君よりもずーっと大人だ」


 相手が子供となれば、大人・・として優しく接してあげないとな。うん。


「ふざけるな! 私は四大魔王の一人“魔炎”のレスティア・アグニスだぞ! 貴様、魔王の恐ろしさを知らぬようだな。一度殺して教えてやろう」

「魔王!? う、嘘だ! こんな始まりの洞窟に魔王がいるわけないじゃないか! ……って、すみません詠唱やめてその右手降ろしてごめんなさああああい!」


 銀髪の女の子は物騒なことを言った後に右手を俺の方に向け詠唱を始めると、瞬く間に頭よりも大きな火球ができた。

 一度死んだらもう二度と生き返れないじゃん。俺はすかさず額を地面に叩きつける勢いで土下座をし、許しを乞うた。


「……お主にはプライドというものはないのか?」

「命大事にをモットーに生きておりますので」


 俺の世界一綺麗な土下座を披露したことで、詠唱をやめてもらうことができた。

 せっかく底辺でも頑張ってコツコツとお金集めて強くなってきてるのにまじ死ぬとか勘弁。


 ……てか魔王ってなんだよ! なんでこんなとこに居るんだよ!! 初級者向けダンジョンくらいちゃんと探索しろよ! こんな抜け道みたいな所にはなんもないとでも思ってたのか!? 上位勢は節穴か!?


「はぁ。少し熱くなり過ぎてしもうたな。して、お主はなぜ此処におるのだ? 数百年前に封印されてから外界から人が来たことなど一度もなかったと言うのに」

「封印……?」



 俺は魔王の勢力の行き届いていない、小さな街の近くにある小さなダンジョンに入ってからここまでのことを、簡単に魔王に説明した。



「ふむ。ミグル地方が魔王に脅かされていないのは、私のお陰なんだぞ」

「どういう意味?」

「お主、魔王の歴史を知っておるか?」

「えっと、今から約千年前に始まりの魔皇が現れて、瞬く間に人類を制圧していったけれど、当時の勇者に倒されたことと、それから五百年ほど経った頃、今の四大魔王と呼ばれる者たちが現れたことくらいしか……」


「お主も冒険者なら少しは勉強をせい。何も知らぬではないか。今直接関係のない魔皇のことは置いといて、せめて四大魔王のことくらいは知っておくべきであろう」


 魔王に勉強しろと言われる日が来るとは……。

 勉強が嫌で冒険者になったのに、ここでもそんな言葉聞かされるとは思いもしなかったぜ。


「今の情勢を知りたかったが、まあ良い。外界へ出てからでも遅くはないであろう」

「へ?」


 魔王はそう言うと、先程とは違う魔法を詠唱し始めた。


「いやいや、え? 封印されてるんですよね? 何簡単に出れるみたいな発言しちゃってるんですか」

「ん、ああ、お主が此処に入ってきた時点でもう封印の力はだいぶ落ちておるのでな、簡単に出られるぞ」


 え、俺やらかした? もしかして、魔王復活させちゃう? もしそんなことしたら魔王に殺されなくても国に殺されるのだが。


「だが、封印を破ると困ることが一つあるのだ」

「困ること、ですか?」

「うむ。封印を破るにはいくつか代償が必要でな、私が今までに貯めてきたスキルは愚か、培ってきた魔法の大半を失うことになる。お主ら冒険者の言い方で表すならば、D級以上のスキルが全て無くなり、中級魔法以上が未修得状態へとなってしまう。そのような状態でもし他の魔王にでも勘付かれたら即、殺しにくるであろうな」


 魔王は、頭を抱えて悩み始めた。

 それもそうだろう。人族はスキルの上限(リミット)が48枠と決まっているが、魔族にはそれがないと言われている。つまり、手に入れたスキルは全て蓄積させることができるのだ。

 魔王クラスともなれば、一つで41枠以上を使うSSS級スキルをいくつも蓄えているだろう。それを手放すなんて相当な覚悟が必要なはず。


「え、それより最後なんて言いました? 魔王がなんで魔王に殺されるんですか」

「私が裏切り者だからだ。お主、どうせ私を封印したのは数百年前の勇者だと思っておるのだろう? だが実際私を封印したのは他の三人の魔王達だぞ」


 魔王はとんでもないことを言い出した。裏切ったってことは人族の味方なのか?


「そうだお主、今スキル枠とやらはいくつ空いておる?」


 何か案を思いついたのか、パッと表情を明るくしていきなりそんなことを聞いてきた。俺的には裏切り云々の話を詳しく聞きたいのだが……。まあ後で聞こう。


「残念なことに48枠のうち46枠空いております」


 俺の持っているスキルはC級——これまた一番低いランクのスキルだ。勿論使えない。《幸運+1》とかいう意味のわからないものだ。運が1増えただけで何になんの? 最大値いくつよ。今までの人生良いことなんてひとつもなかったんだけど?


「ほう。46枠も空いておるのか」

「はい」


 魔王はどうせ俺のことクソ雑魚じゃねえかって思ってんだろうな。先程見せた表情はなんだったのか、また真剣に悩んでいる表情になった。


「お主、私を助ける気はあるか?」

「はい?」

「だからお主に外界に出てから私の旅路に同行してほしいのだ」


 つまりよくわかってないけど、他の魔王に狙われるのを庇えとかそう言うことか? こいつバカだな。そんな危ないこと誰が好んでやるんだよ。


「残念ですけど絶対そんな危ないこt「私の持っているスキルを、それもSSS級スキルをお主にやると言ったら?」

「是非お供します」


 即答以外になにがあるか。

 ないよなぁ?


「ふふふ、ではどれが良いかのう」


 魔王は髪の毛を指先でクルクルさせながら楽しそうにスキルを探している。

 勿論俺は尻尾があれば最速で振るくらいの気持ちで待っている。


「よし、ではこれにしよう」


 どうやら決めたらしい。魔王は俺の方へと距離を縮めるために歩いてきた。


「あ、あの、近過ぎませんか?」


 俺より一回りか二回りほど小さい女の子——魔王というのに角があるわけでも、肌の色が緑だとか言うわけでもなく、唯一人族との違いがあるといえば耳が尖っているくらいしかない——が、目先にいる。それも、頬を赤らめて。


「仕方なかろう。私の持っている譲渡スキルがこうしないと発動しないものなのだから」


 魔王はそう言うと俺の頭を掴み、見た目からは想像も付かないほどの馬鹿力で自身の顔へと押し付けた。


「ん"ー! ん"! ん"ー!!」


「ほれ、これで譲渡完了したぞ」


 俺の初キス……なんとも言えない特殊すぎる状況で終わってしまった……。

 何がなんだか、色々な事が起こりすぎて遂に頭が回らなくなる。


 数秒間固まっていると、魔王は「いつまで余韻に浸っておるのだ」と言いながら俺の太ももを軽く蹴った。


 軽く、と言ってもその蹴られた部分、凹んだけどね。


「……因みに、なんのスキルなんですか?」

「うむ。私が魔王と呼ばれる前から愛用していた、私が直々に()()()()()スキル《アグニス》だ。効果は追々話すとしよう。契約も成立したことだし、とりあえずこの暑苦しい空間から出ようではないか!」



「な、編み出した?! ……ってちょ、ええ」



 魔王は外に出られるのがよほど嬉しいのか、明るさを振り撒くような笑みを浮かべている。

 俺は魔王レスティア・アグニスに、良いように使われているだけかもしれない。だが、念願のSSS級スキルを手に入れたんだ。これからは薔薇色人生になるはず——






「おーい、大丈夫か?」

「ん、んんん……はっ?! ココハドコ? ワタシハダレ?」


 俺が気がつくとそこは森の中だった。魔王は膝曲げて、倒れている俺の頬をぺちぺちと叩いて起こしてくれた。


「何を言っておる、お主がもともといた世界ではないか。封印、ヴォルテクスの外に出れたようじゃな。……それより、お主誰だ? まだ名を聞いておらんかったな」

「あ、すません。こういうのは定番かなと思いつい……。

 俺はミグル村出身、16歳、F級冒険者のミライ・ハールーンです」


 魔王は立ち上がると、俺に手を差し伸べて起き上がらせてくれた。


「ふむ。定番とやらはよくわからぬが、ミライよ、これからよろしく頼むぞ」

「一生お供します」

「一生……か。人族の一生は短いからのう」

「あ、そうですよね、現に魔王様は何百さ——」


 その瞬間、息ができなくなる一撃を鳩尾(みぞおち)に一発入れられ、強制的に言葉を遮らされた。


「言っていいことと悪いことがあると、わからぬのかな! まったく。それと、私のことはレスティアと呼ぶが良いぞ」

「う、は、はい……わかりました」


 俺は(うずくま)りながらも返事をした。

 封印解いたら弱くなるんじゃなかったのかよ。馬鹿力は健在じゃねえか……って、これでも弱体化入ってんのか?? だとしたら恐ろしすぎるじゃねえかよ。



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